愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜
28、エルベルトの助力 前編
「セドリック、無駄な時間を使わせるな」
その言葉にビクッと体を震わせたセドリックは、国王を見上げる。
「貴様は国王となるのだ。国をよくすることだけに時間を使え。犯罪を冒したのはデボラであり被害者はコレットということだな。ではデボラを捕らえて牢屋に入れ、コレットに賠償金を払わせれば良い。それでこの話は終わりだ」
国王がそうまとめて話が終わりに向かってしまった。せっかくのセドリックを失脚させる作戦であるのに、このままでは意味がない。予想外な展開だ。
カトリーヌが焦っていると、コルディエ侯爵が口を開いた。
「お待ちくださいっ。それではあんまりです。私の娘であるカトリーヌはこのような場で冤罪を着せられたのです! 大きく名誉を傷つけられ、婚約者から信じてもらえず、カトリーヌは深く傷ついています! それに根拠なく婚約者を断罪するような者が、次期国王として相応しいのでしょうか!」
侯爵は下手したら自らの立場が危うくなることを口にした。
セドリックの失脚へと流れが向くように貴族たちへ根回しをしていた侯爵だが、正面から国王に反論するのは危険な行為だ。
しかし、侯爵はカトリーヌのために引く様子はなかった。
カトリーヌが孤軍奮闘する侯爵に、嬉しさと申し訳なさで思わず泣きそうになっていると、国王は少し考えてから口を開く。
「確かにそれも一理ある意見だ。ではセドリックには罰として一年間の騎士団への従事を命じる。さらにコルディエ侯爵家にもカトリーヌ嬢にも賠償金を支払おう。それでいいな?」
有無を言わさぬ態度の国王に、侯爵もさすがに言葉が詰まった。このままでは、カトリーヌとセドリックとの婚約はそのままである。
皆が予想していた以上に、国王はセドリックを次期国王の座から下ろしたくないと思っていたのだ。確かに他に王子がいない以上、国の発展を一番に考えたら安易に下ろせないのは分かる。
ただここまでやらかしても、まだセドリックに国を任せるつもりであることが、カトリーヌには信じられない気持ちだった。侯爵やコレット、さらには一部のセドリックを失脚させるべきだと考える貴族たちも同様だろう。
国王は興味がないように見えて、実は息子に甘く、自らの息子を信じすぎているのかもしれなかった。
しかし、この国は国王の権力が強いのだ。国王の決定に逆らうのは容易なことではない。
「セドリック、それでいいな? お前は深く反省して、もっと国のためだけに動けるようになれ。女などに振り回されるな。世継ぎを産むのは大切だが、それ以上の深い関わりは必要ない」
国王にそう言われてしまえば、さすがのセドリックも頷くしかないだろう。
「……分かり」
「少し待ってくれないか」
セドリックが頷こうとした瞬間、ずっと静かに事態を見守っていたエルベルトが動いた。口を開きながらカトリーヌの横に向かい、国王を見上げる。
「お前は誰だ?」
国王の端的な問いかけに、エルベルトは竜族の証であるピアスを取り出すと、それを耳に付けた。
「俺は竜族だ。名をエルベルトと言う」
その挨拶とピアスに、会場がざわついた。さすがに国王も表情に驚きを浮かべる。
「竜族って、本物なの⁉︎」
「あのピアスは本物に見えるぞ」
「なんで竜族がこんなところに」
「まさか姿を見ることができるなんて」
皆が小声で会話をしていた。
竜族の存在とは、それほど衝撃的なものなのだ。人間にとっては神に近しい存在、それが竜族である。
「コルディエ侯爵と縁があり、今回はパーティーに招待してもらっていた。話を聞いていたのだが――さすがに今の対応はいかがなものか。少なくともカトリーヌ嬢との婚約は破棄とするべきだろう。さらにセドリックという名の王子も、明らかに上に立つ者として相応しくない。廃嫡するのが妥当ではないのか? この国に少し滞在しているだけで噂を耳にしたが、その王子は享楽に耽り国の金を私的に使い込んでいるようだ。そのような者がトップに立つ国など、我々としても関わりたくはない」
最後の言葉は、大きな衝撃だったようだ。
神に近しい存在である竜族に見放されるということは、神に見放されることと同義だ。国の発展などと言っている場合ではなく、国が滅亡する危機である。
国王はかなり焦った様子で口を開いた。
「まさか竜族の方がいらっしゃるとは……エルベルト様、我がファーブル王国へようこそお越しくださいました。私の判断は間違っていたようです。エルベルト様の仰るとおり、セドリックは廃嫡として――」
国王の中で国の発展を一番に考えた時のセドリックへの対処が変わった。
しかし、急に廃嫡が決まったセドリックは黙っていない。
「父上! 私が廃嫡とはどういうことですか⁉︎」
「そのままの意味だ。お前がやらかしたことへの罪を償い、これからは平民として生きろ」
「先ほどは騎士団で一年間と!」
「それは私が間違っていた。エルベルト様が仰っているんだ。これは竜神様のお言葉だと心得よ」
国王はセドリックを諭すが、セドリックは全く納得できていない様子だ。
「竜族だからって、なぜ全てに従わなければならないのですか! この国の王は父上です! そもそも本当に竜族なのかも怪しい……」
「お前は黙っていろ‼︎」
勉学をサボっていたセドリックは、この世界における竜族の立場も、竜族に見捨てられることの危険性も、さらには竜族という存在の詳細についても理解していない。
ここにきて国王は、やっと自らの息子の愚かさに気づき始めたらしい。
「まさか、お前がここまで愚かだとは……」
しかし今までひたすら甘やかされてきたセドリックが、ここで大人しくなるはずもない。セドリックは不満の矛先をエルベルト、そしてカトリーヌに向けた。
その言葉にビクッと体を震わせたセドリックは、国王を見上げる。
「貴様は国王となるのだ。国をよくすることだけに時間を使え。犯罪を冒したのはデボラであり被害者はコレットということだな。ではデボラを捕らえて牢屋に入れ、コレットに賠償金を払わせれば良い。それでこの話は終わりだ」
国王がそうまとめて話が終わりに向かってしまった。せっかくのセドリックを失脚させる作戦であるのに、このままでは意味がない。予想外な展開だ。
カトリーヌが焦っていると、コルディエ侯爵が口を開いた。
「お待ちくださいっ。それではあんまりです。私の娘であるカトリーヌはこのような場で冤罪を着せられたのです! 大きく名誉を傷つけられ、婚約者から信じてもらえず、カトリーヌは深く傷ついています! それに根拠なく婚約者を断罪するような者が、次期国王として相応しいのでしょうか!」
侯爵は下手したら自らの立場が危うくなることを口にした。
セドリックの失脚へと流れが向くように貴族たちへ根回しをしていた侯爵だが、正面から国王に反論するのは危険な行為だ。
しかし、侯爵はカトリーヌのために引く様子はなかった。
カトリーヌが孤軍奮闘する侯爵に、嬉しさと申し訳なさで思わず泣きそうになっていると、国王は少し考えてから口を開く。
「確かにそれも一理ある意見だ。ではセドリックには罰として一年間の騎士団への従事を命じる。さらにコルディエ侯爵家にもカトリーヌ嬢にも賠償金を支払おう。それでいいな?」
有無を言わさぬ態度の国王に、侯爵もさすがに言葉が詰まった。このままでは、カトリーヌとセドリックとの婚約はそのままである。
皆が予想していた以上に、国王はセドリックを次期国王の座から下ろしたくないと思っていたのだ。確かに他に王子がいない以上、国の発展を一番に考えたら安易に下ろせないのは分かる。
ただここまでやらかしても、まだセドリックに国を任せるつもりであることが、カトリーヌには信じられない気持ちだった。侯爵やコレット、さらには一部のセドリックを失脚させるべきだと考える貴族たちも同様だろう。
国王は興味がないように見えて、実は息子に甘く、自らの息子を信じすぎているのかもしれなかった。
しかし、この国は国王の権力が強いのだ。国王の決定に逆らうのは容易なことではない。
「セドリック、それでいいな? お前は深く反省して、もっと国のためだけに動けるようになれ。女などに振り回されるな。世継ぎを産むのは大切だが、それ以上の深い関わりは必要ない」
国王にそう言われてしまえば、さすがのセドリックも頷くしかないだろう。
「……分かり」
「少し待ってくれないか」
セドリックが頷こうとした瞬間、ずっと静かに事態を見守っていたエルベルトが動いた。口を開きながらカトリーヌの横に向かい、国王を見上げる。
「お前は誰だ?」
国王の端的な問いかけに、エルベルトは竜族の証であるピアスを取り出すと、それを耳に付けた。
「俺は竜族だ。名をエルベルトと言う」
その挨拶とピアスに、会場がざわついた。さすがに国王も表情に驚きを浮かべる。
「竜族って、本物なの⁉︎」
「あのピアスは本物に見えるぞ」
「なんで竜族がこんなところに」
「まさか姿を見ることができるなんて」
皆が小声で会話をしていた。
竜族の存在とは、それほど衝撃的なものなのだ。人間にとっては神に近しい存在、それが竜族である。
「コルディエ侯爵と縁があり、今回はパーティーに招待してもらっていた。話を聞いていたのだが――さすがに今の対応はいかがなものか。少なくともカトリーヌ嬢との婚約は破棄とするべきだろう。さらにセドリックという名の王子も、明らかに上に立つ者として相応しくない。廃嫡するのが妥当ではないのか? この国に少し滞在しているだけで噂を耳にしたが、その王子は享楽に耽り国の金を私的に使い込んでいるようだ。そのような者がトップに立つ国など、我々としても関わりたくはない」
最後の言葉は、大きな衝撃だったようだ。
神に近しい存在である竜族に見放されるということは、神に見放されることと同義だ。国の発展などと言っている場合ではなく、国が滅亡する危機である。
国王はかなり焦った様子で口を開いた。
「まさか竜族の方がいらっしゃるとは……エルベルト様、我がファーブル王国へようこそお越しくださいました。私の判断は間違っていたようです。エルベルト様の仰るとおり、セドリックは廃嫡として――」
国王の中で国の発展を一番に考えた時のセドリックへの対処が変わった。
しかし、急に廃嫡が決まったセドリックは黙っていない。
「父上! 私が廃嫡とはどういうことですか⁉︎」
「そのままの意味だ。お前がやらかしたことへの罪を償い、これからは平民として生きろ」
「先ほどは騎士団で一年間と!」
「それは私が間違っていた。エルベルト様が仰っているんだ。これは竜神様のお言葉だと心得よ」
国王はセドリックを諭すが、セドリックは全く納得できていない様子だ。
「竜族だからって、なぜ全てに従わなければならないのですか! この国の王は父上です! そもそも本当に竜族なのかも怪しい……」
「お前は黙っていろ‼︎」
勉学をサボっていたセドリックは、この世界における竜族の立場も、竜族に見捨てられることの危険性も、さらには竜族という存在の詳細についても理解していない。
ここにきて国王は、やっと自らの息子の愚かさに気づき始めたらしい。
「まさか、お前がここまで愚かだとは……」
しかし今までひたすら甘やかされてきたセドリックが、ここで大人しくなるはずもない。セドリックは不満の矛先をエルベルト、そしてカトリーヌに向けた。