愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜

29、エルベルトの助力 後編

「ここは私たちの国だぞ。竜族だかなんだか知らないが、この国で一番偉いのは私たちだ! 分かったぞ、カトリーヌ、お前が私を貶めようと仕組んだのだな! カトリーヌは私たちの国を壊そうとする最悪の女だ! おいっ、護衛兵たちっ。早くカトリーヌを捕えろ!」

 セドリックの言葉に護衛兵たちは困惑を見せながらも、誰も動かない。

 それに焦れたセドリックが自ら階段をズカズカと降り、カトリーヌに向かって乱暴に手を伸ばしたが――。

「やめろ」

 カトリーヌに手が届く前に、鋭い眼差しのエルベルトがセドリックの腕を掴んで止めた。

「私はこの女の婚約者だぞ! お前に止められる筋合いはない!」
「その婚約者を冤罪で非難し、根拠のない罪で捕えようとしているのは誰だ?」

 エルベルトの尤もすぎる言葉に、セドリックは一瞬だけ声を詰まらせる。

 しかし、もう後戻りはできないのだろう。掴まれているのとは逆の拳を握りしめ、エルベルトに殴りかかった。

「きゃー!」
「何をしてっ!」

 竜族に対しての愚行に、周りで事態を見守っていた貴族たちから悲鳴が上がる。

 そんな中で、顔を怒りに染めた国王が鋭く叫んだ。

「セドリックを捕らえよ!」

 今度は国王の指示ということもあり、護衛兵たちは即座に動いた。エルベルトに避けられてもなお、殴りかかろうとしているセドリックのことを、何人もの護衛兵たちが拘束する。

 床に押さえつけられて手足の自由を奪われたセドリックは、それでもまだ叫んでいた。

「何をする! 私は王子だぞ⁉︎」
「陛下のご指示ですので」
「父上っ、なぜこんなことをするのですか! 竜族がそんなに偉いのですか⁉︎」
「お前はそんなことも理解していないのか⁉︎」

 二人が醜く言い争う。その様子に顔を顰めたエルベルトは、カトリーヌの肩に手を置くとよく通る声で言った。

「カトリーヌ嬢はとても優秀な魔道具師であり、すでに俺の大切な友人となっている。少なくとも現状のこの国はカトリーヌ嬢が暮らすのに適さないようだ。そのうち竜族の集落に招待しようと思っていたが、予定を変更してこれからすぐに招待することにする。カトリーヌ嬢が戻るまでに、親子喧嘩を終わらせておけ」

 冷たい声音で告げたエルベルトに、国王が神妙な面持ちで頷いた。

「見苦しいところをお見せして大変申し訳ございません。セドリックのことは必ず解決しておきます」
「ちちうっ……うぐ」

 セドリックはまた何かを叫ぼうとして、護衛兵に口を塞がれた。

 それにチラッと視線を向けてから、エルベルトはまた国王に視線を戻す。

「カトリーヌ嬢との婚約は」
「もちろんセドリックとの婚約は解消となります」

 その言葉に満足したように頷いたエルベルトは、今度はコルディエ侯爵に声をかけた。

「侯爵、しばらくカトリーヌを連れていっても構わないだろうか」
「もちろんでございます。カトリーヌ本人が了承するならば、侯爵家が反対することはありません」
「分かった」

 侯爵の答えに頷き、エルベルトはカトリーヌの顔を覗き込むようにする。

 さっきまでの鋭さが消えて、一気に柔らかい雰囲気になった。

「カトリーヌ、突然の話ですまないが、これから竜族の集落に来ないか?」

 その問いかけに、カトリーヌは次々と変わる状況に混乱しながらも、なんとか頷いた。

「も、もちろんです。とても光栄です」
「良かった」

 カトリーヌが了承すると、エルベルトはこれ以上ないほどに優しく、そして嬉しそうに微笑んだ。それに他の令嬢たちのざわめきが起きる。

 そんな中で、エルベルトはカトリーヌの肩に置いていた手を腰に移し、耳元で告げた。

「では、俺の腕に掴まっていてくれ。絶対に落とさないので安心してほしい。少し魔法を使う」

 何をするのかよく分からなかったが、カトリーヌはもう完全にエルベルトのことを信頼しているので、何も聞き返すことなく頷いた。

 すると、カトリーヌの腰を抱くエルベルトの腕に、さらに力が入る。距離の近さにカトリーヌの顔が赤くなった、その瞬間。

「きゃあっ」

 突然、エルベルトとカトリーヌの体が宙に浮いた。

「大丈夫だ」

 カトリーヌは思わず叫んでしまったが、エルベルトの声に安心する。

「行くぞ」

 その声かけと共に、二人の体はパーティー会場の大きな出入り口に向かってまっすぐに飛んでいった。エルベルトの風魔法でバタンッと開いた扉から、そのまま外に飛び出す。

「わぁぁ」

 安心できると、今度は楽しくなってきたカトリーヌである。自分が空を飛んでいることに、高揚して自然と笑顔になった。

 少しだけ外も飛び、二人は会場から少し離れたところにふわりと着地する。着地してからもまだふわふわと、なんだか現実感のない楽しい心地が続いていたカトリーヌに、エルベルトは眉を下げながら口を開いた。

「カトリーヌ、すまなかった。つい怒りに任せて勝手なことを……余計なことをしなかっただろうか。竜族の集落に招待する話も事前の相談なく進めてしまったし、先ほども早くあの場から立ち去りたくて魔法まで使ってしまった」

 なぜか反省している様子のエルベルトに、カトリーヌは笑顔になる。

 さっきまで堂々として国王でさえ逆らえないようなオーラを発していたのに、今ではシュンッと落ち込んでなんだか小さく見えるそのギャップに惹かれたのだ。

「エルベルト様、謝る必要はありません。エルベルト様がいらっしゃらなければ、わたしは婚約破棄すらできなかったでしょう。助力に感謝申し上げます。それから竜族の集落に行けるのもとても嬉しいです。魔法で空を飛べたのも、とても楽しかったです」

 はっきりと告げたカトリーヌに、エルベルトは安心したように頬を緩めた。

「それなら良かった」
「はい」
「では、さっそく竜族の集落に向かうので構わないだろうか。侯爵やコレットと話をしてからにするか?」

 その問いかけに、カトリーヌは少し悩む。しかしパーティー会場でしばらく竜族の集落に向かうと宣言した形になった以上、今はあまり留まらない方がいいだろうと考えた。

(これから国がどうなるのか、侯爵家に問題が起きないかどうかは気になるけど……そこはお父様ならば大丈夫よね。コレットのこともお父様が上手くやってくれるでしょうし、色々と話したいけど、コレットと会うのももう少し時間を置いてからの方がいいはず)

 色々と考えた結果をエルベルトに伝えた。

「このまま集落に向かいたいです。国に戻ってから、お父様やコレットとは落ち着いて話をしたいと思います」

 カトリーヌの返答を聞いて、エルベルトは嬉しそうな笑みを見せる。

「分かった。では竜族の集落に向かおう。荷物だけ屋敷に取りに寄るので構わないか?」
「はい。着替えなどと魔道具を持っていかなくては」
「それは大切だな。集落でも研究がしたい」
「そのために必要なものを持っていきましょう」

 二人は笑顔でそんな話をしながら、隣り合って歩いた。
 そんな二人の雰囲気は、とても親密で楽しげだった。
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