愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜
30、竜族の集落へ行く方法
ファーブル王国の王都を出たカトリーヌとエルベルトは、たくさんの荷物が詰め込まれた鞄を持って、ある森の中腹に立っていた。そこは森の中にある崖上のような場所で、景色が開けているところだ。
その場所までは、エルベルトの魔法によって移動したことで、カトリーヌでも何の問題もなく来ることができた。
「カトリーヌ、疲れてはいないか?」
「はい。エルベルト様が運んでくださったので全く問題ありません。むしろエルベルト様は大丈夫でしょうか。結構魔法を使っていたと思うのですが……」
「俺も全く問題ない。急いで移動したわけではないからな。それに、カトリーヌの魔道具を使うことができた」
実際に長距離を移動するのに使ったところ、魔道具はなんの問題もなく働いてくれたのだ。
「実用に耐えるものになっていて良かったです」
「ああ、さすがカトリーヌだ。早く集落に戻って妹に渡してやりたいな」
そう言って笑うエルベルトは兄の顔で、カトリーヌはほっこりしてしまう。
「楽しみですね。わたしも実際に集落の様子や妹さんが使用される様子を見て、魔道具の改良をしたいです。もちろん先ほどからエルベルト様が使っている様子も観察しておりまして、そちらの改良もしたいと思っています。特に攻撃魔法系は、もう少し発動する現象に柔軟性を持たせられると使い勝手が……」
つい魔道具の研究に意識が向いてしまったカトリーヌを、エルベルトが笑って止めた。
「その考察は集落に着いてからにしよう。ここでは試作などもできないからな」
「確かに、そうですね」
ハッと顔を上げたカトリーヌが頷くと、エルベルトは楽しげな表情のまま、懐から何かを取り出した。それは複雑な意匠の笛のようなものだ。
ピーーーーッ。
口に咥えたその笛を吹くと、とても澄んだ綺麗な音色が鳴る。どこまでも届きそうなその音色に聞き惚れていると、エルベルトは笛から口を離した。
「その笛は何なのでしょうか」
カトリーヌが問いかけると、エルベルトはニッと笑ってから衝撃的な答えを口にする。
「この笛を吹くと竜が来てくれるんだ。普段はあまり乗らないし、集落に帰る時も先ほどまでのように魔法で帰るのだが、今回はカトリーヌがいるからな。竜に乗せてもらった方が楽だと思うので呼んでみた」
ただ楽だからという理由で気軽に竜を呼ぶエルベルトに、カトリーヌは驚きすぎて何も言えなかった。
「な、な、……」
完全に言葉に詰まっているカトリーヌに、エルベルトが楽しそうに笑う。
「ははっ、珍しい表情だ」
その気楽そうな笑顔を見て、カトリーヌはなんとか意味のある言葉を発した。
「今から竜が、ここに来るということですか⁉︎」
「ああ、おそらくそろそろ来るはずだ」
「な、そんなっ、移動手段に使うなんて、そんな不敬なっ」
あまりにも不敬ではないかと、カトリーヌは焦ることしかできない。
しかしエルベルトは何も気にしていない様子でカトリーヌの肩に手を置いた。
「大丈夫だ。竜たちは割と俺たちを乗せるのが好きだったりする。頻繁すぎると面倒だと言われるが、たまにならむしろ楽しんでくれるんだ。それに人間を乗せるなんてかなり稀なことだからな、竜は喜ぶだろう」
そう言われても、カトリーヌは完全に平常心に戻ることはできなかった。
竜は竜神の眷属そのものなのだ。竜族も人間にとっては神に近い存在だが、竜族はまだ竜神の眷属を世話する存在で、神そのものではない。
しかし竜は、竜の眷属だ。竜神の一部とも言えるだろう。
「あっ、あの、言葉は通じますか?」
「もちろん通じる。普通にフーリ語で問題ない」
「挨拶をしても大丈夫でしょうかっ」
「もちろんだ。むしろ色々と話した方が喜ばれるだろう。竜は割とおしゃべりが好きだったりするからな」
「何か言ってしまっては失礼な言葉などは……!」
「うーん、そんなものはないと思うが」
カトリーヌがエルベルトを質問攻めにしていると、雲一つない青空だったにもかかわらず、突然二人が立っている場所が影になった。
反射的に上を向くと――。
そこにいたのは、竜だ。大きな翼を広げて悠々と空を飛ぶ竜だった。
竜は旋回するようにして、二人の近くに降り立つ。ブワッと強風が吹き付け、よろけたカトリーヌのことをエルベルトが支えた。
「大丈夫だろうか」
「エルベルト様……」
エルベルトに抱き締められる形になっているのだが、カトリーヌは目の前に降り立った竜の衝撃が大きすぎて、それどころではない。もはや抱き締められていることにも気づいていなかった。
「どうした?」
「竜とは、こんなに大きいのですか……?」
「ああ、このぐらいだな」
間近に降り立った竜は、人の背丈の数倍は大きい。首が痛くなるほど見上げなければ顔が見えなかった。
そんな巨大な竜を呆然と見上げていると、エルベルトが話しかける。
「バルザ、来てくれてありがとう」
竜の名前はバルザというようだ。その気安さにカトリーヌはさらに驚いてしまう。
「別に構わんが、エルベルトが我らを呼ぶのは珍しいな。その娘は番にするのか? 竜族ではないようだが」
竜の話す言葉はとても流暢だった。口から声が出されているというよりも、体の中で反響している音が耳に届いているような、不思議な心地だ。
しかしとても聞きやすく、気持ちが落ち着くような穏やかな重低音である。
「カトリーヌ、友人だ。魔道具の関係で集落に招待した」
「魔道具を作れる人間なのか」
「ああ、カトリーヌは凄いぞ。作るだけではなく研究もできる」
「それは興味深いな。人間の技術は面白い」
楽しげにそう言ったバルザは、ニヤッと笑みを浮かべると顔をエルベルトに近づけた。
「しかし、番にもするつもりなんだろう?」
下世話なバルザにエルベルトは呆れた表情だ。
「そういう話をカトリーヌの前でするな」
「ほうほう、そうかそうか」
楽しげに頷いているバルザから、エルベルトは視線を外した。申し訳なさそうに眉を下げながらカトリーヌに声をかけ――。
「カトリーヌ、変な話をしてしまってすまない」
その声かけで、カトリーヌはやっと我に返った。
竜の名前を辛うじて覚えたぐらいで、先ほどまでの会話は完全に右から左へと流れていた。カトリーヌにとっては、竜が目の前にいるだけでキャパオーバーである。
「あ、いえ、その……」
必死に頭を働かせたカトリーヌは、ふと気づいた。驚いて固まってばかりで、竜に挨拶をしていなかったのだ。
「ご、ご挨拶が遅れて申し訳ございませんっ。バルザ様、とお呼びしてよろしいのでしょうか。私はカトリーヌ・コルディエと申します。ファーブル王国の侯爵家に生まれました。エルベルト様とは命を助けていただいた縁で知り合い、今回は竜族の方々の集落へと招待していただくことになりまして……よろしくお願いいたします!」
まだ頭が混乱していて挨拶はまとまらず、最後は勢いと共に頭を下げた。
バルザはそんなカトリーヌに楽しげな笑みを浮かべる。
「礼儀正しい人間だな。カトリーヌ、我のことはバルザと呼ぶといい。よろしく頼むぞ」
「あ、ありがとうございます」
「さて、エルベルト。我はお主たちを集落まで運べばいいのだな?」
カトリーヌからエルベルトに視線を移したバルザが問いかけ、それにエルベルトが頷いた。
「ああ、よろしく頼む。できる限りゆっくり飛んでほしい」
「もちろんだ。人間は脆いからな。エルベルトも魔法で支えるんだぞ?」
「分かっている。じゃあ、屈んでくれ」
その言葉に従って、バルザはその場に寝そべるような形になった。
その場所までは、エルベルトの魔法によって移動したことで、カトリーヌでも何の問題もなく来ることができた。
「カトリーヌ、疲れてはいないか?」
「はい。エルベルト様が運んでくださったので全く問題ありません。むしろエルベルト様は大丈夫でしょうか。結構魔法を使っていたと思うのですが……」
「俺も全く問題ない。急いで移動したわけではないからな。それに、カトリーヌの魔道具を使うことができた」
実際に長距離を移動するのに使ったところ、魔道具はなんの問題もなく働いてくれたのだ。
「実用に耐えるものになっていて良かったです」
「ああ、さすがカトリーヌだ。早く集落に戻って妹に渡してやりたいな」
そう言って笑うエルベルトは兄の顔で、カトリーヌはほっこりしてしまう。
「楽しみですね。わたしも実際に集落の様子や妹さんが使用される様子を見て、魔道具の改良をしたいです。もちろん先ほどからエルベルト様が使っている様子も観察しておりまして、そちらの改良もしたいと思っています。特に攻撃魔法系は、もう少し発動する現象に柔軟性を持たせられると使い勝手が……」
つい魔道具の研究に意識が向いてしまったカトリーヌを、エルベルトが笑って止めた。
「その考察は集落に着いてからにしよう。ここでは試作などもできないからな」
「確かに、そうですね」
ハッと顔を上げたカトリーヌが頷くと、エルベルトは楽しげな表情のまま、懐から何かを取り出した。それは複雑な意匠の笛のようなものだ。
ピーーーーッ。
口に咥えたその笛を吹くと、とても澄んだ綺麗な音色が鳴る。どこまでも届きそうなその音色に聞き惚れていると、エルベルトは笛から口を離した。
「その笛は何なのでしょうか」
カトリーヌが問いかけると、エルベルトはニッと笑ってから衝撃的な答えを口にする。
「この笛を吹くと竜が来てくれるんだ。普段はあまり乗らないし、集落に帰る時も先ほどまでのように魔法で帰るのだが、今回はカトリーヌがいるからな。竜に乗せてもらった方が楽だと思うので呼んでみた」
ただ楽だからという理由で気軽に竜を呼ぶエルベルトに、カトリーヌは驚きすぎて何も言えなかった。
「な、な、……」
完全に言葉に詰まっているカトリーヌに、エルベルトが楽しそうに笑う。
「ははっ、珍しい表情だ」
その気楽そうな笑顔を見て、カトリーヌはなんとか意味のある言葉を発した。
「今から竜が、ここに来るということですか⁉︎」
「ああ、おそらくそろそろ来るはずだ」
「な、そんなっ、移動手段に使うなんて、そんな不敬なっ」
あまりにも不敬ではないかと、カトリーヌは焦ることしかできない。
しかしエルベルトは何も気にしていない様子でカトリーヌの肩に手を置いた。
「大丈夫だ。竜たちは割と俺たちを乗せるのが好きだったりする。頻繁すぎると面倒だと言われるが、たまにならむしろ楽しんでくれるんだ。それに人間を乗せるなんてかなり稀なことだからな、竜は喜ぶだろう」
そう言われても、カトリーヌは完全に平常心に戻ることはできなかった。
竜は竜神の眷属そのものなのだ。竜族も人間にとっては神に近い存在だが、竜族はまだ竜神の眷属を世話する存在で、神そのものではない。
しかし竜は、竜の眷属だ。竜神の一部とも言えるだろう。
「あっ、あの、言葉は通じますか?」
「もちろん通じる。普通にフーリ語で問題ない」
「挨拶をしても大丈夫でしょうかっ」
「もちろんだ。むしろ色々と話した方が喜ばれるだろう。竜は割とおしゃべりが好きだったりするからな」
「何か言ってしまっては失礼な言葉などは……!」
「うーん、そんなものはないと思うが」
カトリーヌがエルベルトを質問攻めにしていると、雲一つない青空だったにもかかわらず、突然二人が立っている場所が影になった。
反射的に上を向くと――。
そこにいたのは、竜だ。大きな翼を広げて悠々と空を飛ぶ竜だった。
竜は旋回するようにして、二人の近くに降り立つ。ブワッと強風が吹き付け、よろけたカトリーヌのことをエルベルトが支えた。
「大丈夫だろうか」
「エルベルト様……」
エルベルトに抱き締められる形になっているのだが、カトリーヌは目の前に降り立った竜の衝撃が大きすぎて、それどころではない。もはや抱き締められていることにも気づいていなかった。
「どうした?」
「竜とは、こんなに大きいのですか……?」
「ああ、このぐらいだな」
間近に降り立った竜は、人の背丈の数倍は大きい。首が痛くなるほど見上げなければ顔が見えなかった。
そんな巨大な竜を呆然と見上げていると、エルベルトが話しかける。
「バルザ、来てくれてありがとう」
竜の名前はバルザというようだ。その気安さにカトリーヌはさらに驚いてしまう。
「別に構わんが、エルベルトが我らを呼ぶのは珍しいな。その娘は番にするのか? 竜族ではないようだが」
竜の話す言葉はとても流暢だった。口から声が出されているというよりも、体の中で反響している音が耳に届いているような、不思議な心地だ。
しかしとても聞きやすく、気持ちが落ち着くような穏やかな重低音である。
「カトリーヌ、友人だ。魔道具の関係で集落に招待した」
「魔道具を作れる人間なのか」
「ああ、カトリーヌは凄いぞ。作るだけではなく研究もできる」
「それは興味深いな。人間の技術は面白い」
楽しげにそう言ったバルザは、ニヤッと笑みを浮かべると顔をエルベルトに近づけた。
「しかし、番にもするつもりなんだろう?」
下世話なバルザにエルベルトは呆れた表情だ。
「そういう話をカトリーヌの前でするな」
「ほうほう、そうかそうか」
楽しげに頷いているバルザから、エルベルトは視線を外した。申し訳なさそうに眉を下げながらカトリーヌに声をかけ――。
「カトリーヌ、変な話をしてしまってすまない」
その声かけで、カトリーヌはやっと我に返った。
竜の名前を辛うじて覚えたぐらいで、先ほどまでの会話は完全に右から左へと流れていた。カトリーヌにとっては、竜が目の前にいるだけでキャパオーバーである。
「あ、いえ、その……」
必死に頭を働かせたカトリーヌは、ふと気づいた。驚いて固まってばかりで、竜に挨拶をしていなかったのだ。
「ご、ご挨拶が遅れて申し訳ございませんっ。バルザ様、とお呼びしてよろしいのでしょうか。私はカトリーヌ・コルディエと申します。ファーブル王国の侯爵家に生まれました。エルベルト様とは命を助けていただいた縁で知り合い、今回は竜族の方々の集落へと招待していただくことになりまして……よろしくお願いいたします!」
まだ頭が混乱していて挨拶はまとまらず、最後は勢いと共に頭を下げた。
バルザはそんなカトリーヌに楽しげな笑みを浮かべる。
「礼儀正しい人間だな。カトリーヌ、我のことはバルザと呼ぶといい。よろしく頼むぞ」
「あ、ありがとうございます」
「さて、エルベルト。我はお主たちを集落まで運べばいいのだな?」
カトリーヌからエルベルトに視線を移したバルザが問いかけ、それにエルベルトが頷いた。
「ああ、よろしく頼む。できる限りゆっくり飛んでほしい」
「もちろんだ。人間は脆いからな。エルベルトも魔法で支えるんだぞ?」
「分かっている。じゃあ、屈んでくれ」
その言葉に従って、バルザはその場に寝そべるような形になった。