愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜

32、集落到着!

「竜の皆様は同じ集落で暮らしているのですか?」

 次の疑問に答えてくれたのは、エルベルトである。

「その通りだ。竜と竜族の集落は、これから俺たちが行く一ヶ所しかない。標高が高い山の中にあり、上空からでないと辿り着くのはほぼ不可能な場所だな」
「竜神様が下界に干渉しやすい場所として過去に選んだんだ。もう我らはずっとあそこにいる」

 かなり重要なことまで話してくれて、カトリーヌはこの話を自分が聞いていいものかと少し焦った。しかし今更なので、絶対に誰にも話さないと改めて決意しながら、さらに質問を重ねた。

「竜神様がこちらに干渉されるのは、どのぐらいの頻度なのですか?」
「何十年も何百年も干渉されないことはよくある。たまに気が向いたら我らに何かを命ずるのだ」

 何百年。人間だったら何世代も経ってしまうその時間感覚に、やはりこうして話ができているが次元の違う存在なんだと、カトリーヌは改めて理解した。

「いつも思うが、長生きも大変だな」

 エルベルトがしみじみそう告げる。

 竜族は基本的に、人間と同程度の寿命と世代交代のサイクルだ。

「まあ、我らは眷属だからな。長く生きなければ意味がないだろう?」
「それもそうか」

 軽い調子で話は終わり、カトリーヌが話に夢中で見ていなかった景色にまた視線を向けると、思っていたよりも近くに巨大な山があった。

 緑豊かで標高がとても高い山だ。しかも一番高い山の周りにはその山よりは少し低いが大きな山が連なっていて、巨大な山脈になっている。

「ここって、竜神山脈ですか?」

 その険しさから人は入ったら生きて出られないと言われている山脈であり、昔から竜神が降臨する場所として崇められてきた。
 
 竜族や竜たちもそこに住んでいるだろうと言われてきたが、その情報は正確だったことが今判明した形だ。

「ああ、あの中心の山の山頂から少し降りたところに集落がある」

 エルベルトが説明していると、バルザが告げた。

「では降りるぞ。少し浮遊感があるだろうが我慢してくれ」
「は、はいっ。分かりました」

 慌ててカトリーヌが体勢を低くして、さらに自分を固定してくれているエルベルトの腕を掴むと、それとほぼ同時にバルザの体が傾いた。

「きゃあぁぁぁ」

 思わず叫んでしまうほどの速度で山に近づいていく。

 普段よりは抑えてくれているのだろうが、高い場所も速い速度にも全く慣れていないカトリーヌには、かなり怖いものだった。

 思わず縋り付くようにエルベルトに抱きつくと、エルベルトはそんなカトリーヌを安心させようとしてくれる。ゆっくりと背中を撫でられると、少しだけ落ち着けた。

「カトリーヌ、集落が見えてきた」

 その言葉にギュッと瞑っていた目を開くと、もう集落はかなり近かった。予想以上に広くて建物がたくさんあり、発展しているように見える。人間の国の都市を、全て巨大化させたような見た目の街だ。

 そう、集落というよりも街だった。

「凄いですね……!」

 多種多様な建物がひしめき合い、竜が通れるように通路はとても広くなっている。全ての建物が大きいが、中でも一段と大きいのは竜たちの住居や、竜たちが使う建物なのだろう。

 巨大な噴水の周りにはバルザではない竜が数体いて、水を飲んでいるようだ。

「喜んでもらえて良かった。街の端にある開けた場所に降りる」

 エルベルトが指差したのは、草木が全て取り除かれ土が剥き出しになっている広場だった。そこが竜の発着場のような形になっているのだろう。

「降りるときに少しだけ衝撃があるからな」

 バルザのそんな声が聞こえてきてカトリーヌが身構えると、バルザはぐるりと旋回するような形で地面に近づいていき、広場の上空で体を水平に戻した。そこで羽を上下に動かすことでふわりと落下速度を緩め、そのまま地面に着地する。

 着地の瞬間にドシンッと少しの振動はあったが、問題になるほどではなかった。

 完全に動きが止まったところで、カトリーヌはホッと息を吐き出す。空の旅は楽しかったが、やはりずっと緊張状態だったのだ。

「着いたぞ」
「カトリーヌ、大丈夫か?」

 エルベルトに心配そうに顔を覗き込まれ、カトリーヌは頷いた。

「問題ありません。ありがとうございました」

 先ほどまでは驚きや恐怖などでエルベルトと密着していることに意識が向いていなかったが、安心できたことで急にそちらが気になってくる。

 カトリーヌがさり気なく距離を取ろうとすると、そんなカトリーヌの心情を知ってか知らずか、エルベルトは楽しそうな笑みを浮かべながらさらにカトリーヌと密着した。
そして、バルザが降り立った場所の周囲を確認する。

「あの辺りに降りよう」

 バルザが体勢を低くしたところで、エルベルトは魔法を使ってふわっと浮きながら、カトリーヌと共に地面に向かって飛び降りた。

 カトリーヌのためにかなりゆっくりな速度だったので、着地の衝撃もなく、カトリーヌは無事に竜族の集落へと降り立つ。

 エルベルトが荷物なども下ろしてくれている中で、カトリーヌは周囲に目を向けた。

 少し離れたところに屋根だけの巨大な建物があり、その中では何体かの竜が寛いでいるようだ。さらに竜たちだけでなく、多くの竜族の姿も見えた。

 竜族たちは人間が普通に歩くように当たり前に魔法を使っていて、空を飛んだり大きくジャンプをしたり、巨大な水球を作り出して竜を洗ったり、動き回っている。

 そんな竜族たちのうちの一人が、バルザの帰還に気づいたようだ。数百メートルは離れている距離を、風魔法を使った一回のジャンプで縮めてカトリーヌたちの下にやってきた。
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