愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜

33、竜族について

「バルザ、おかえり。確かエルベルトに呼ばれたんだよね……って、人間の女の子‼︎」

 バルザに話しかけた明るい雰囲気の竜族の男は、カトリーヌを見て驚きに目を見張る。男はエルベルトと比べたら小柄で、とても身軽な感じだ。髪色が黄色で服装は派手で、オシャレな雰囲気がある。

「ああ、カトリーヌという。エルベルトが集落に招待した」
「マジか! え、恋人ってこと⁉︎」

 テンションの上がっている男の言葉に、カトリーヌは慌てて告げた。

「あ、その、友人です。カトリーヌ・コルディエと申します。よろしくお願いいたします」

 恋人だと誤解されてしまってはエルベルトに迷惑になると思い、カトリーヌは慌てて否定する。

 しかしバルザも番などと言っていたことを思い出し、もしかしたら集落に招待するというのはかなり特別なことなのではないかと悟った。

(本当にわたしが来て良かったのか……確かに竜族の集落に行ったことがある人の話なんて、ほとんど聞いたことがない)

 エルベルトの妹のためという目的はあるのだが、カトリーヌは少し不安になった。

 するとそこにエルベルトが荷物を持ってやってくる。

「ナーヴァル、カトリーヌを困らせないでくれ」
「だって、恋人だったらお祝いしなきゃ!」
「そういう関係では……ない。だから祝いはいらない」

 少しだけ言葉に間が空いたエルベルトに、ナーヴァルはにっこりと笑いながら首を傾げた。

「本当に? 人間を連れてくるなんてめっちゃ珍しいじゃん」
「色々と理由があるんだ」
「理由はあるんだろうけど、それだけかな〜」

 二人はとても気安い会話をしていて、カトリーヌは思わず問いかける。

「あの、お二人はご兄弟とかご友人ですか……?」

 その問いかけに、二人は同時に振り返った。

「友人? まあ、そう言われたらそうだな。ただそれよりも集落の仲間だろうか」
「竜族は皆が仲良しなんだ。あ、僕はナーヴァル、よろしくね!」

 ナーヴァルはニコニコとした笑みを浮かべながら右手を差し出した。

「よろしくお願いします」

 カトリーヌも右手を出すと、ナーヴァルはガシッと掴んでブンブンと上下に振る。明るく元気なナーヴァルのおかげで、カトリーヌはあまり緊張せずに済んでいた。

「竜族はそこまで数が多くないから、集落全体が家族というか、親戚みたいな感じなんだよ。とは言っても今は千人を超えてるんだっけ? あんまり会わない人はちょーっと名前を忘れちゃったりするんだけど」

 ペロッと舌を出したナーヴァルに、カトリーヌは笑顔になる。

「確かに千人は多いですね」
「そうなんだよね〜。特に子供たちは成長すると見た目が変わるから、頻繁に会わないと誰が誰なのか分かんなくなるの」
「子供の成長は早いですからね」

 エルベルト以外の竜族と普通に話ができることに安心して、カトリーヌが緩んだ笑みを見せていると、そんなカトリーヌの顔をずいっと覗き込んだナーヴァルが少し真剣な表情で言った。

「エルベルトと仲良くしてあげてね」
「おい、お前は何目線なんだ」
「え〜、親目線?」
「お前の方が年下だろう」

 エルベルトの言葉にナーヴァルは楽しそうに笑いつつも、先ほどの頼みは真剣なものだった。

「でも、我もナーヴァルに賛成だ。エルベルトは意外と人見知りだからな」
「そうなんだよね〜」

 バルザも参戦して、エルベルトの性格を暴露する。そんな二人にエルベルトは少し焦ったように声を張った。

「俺のことはもういい!」

 賑やかでほっこりするやり取りだが、カトリーヌはエルベルトが人見知りと言われる理由は、攻撃魔法など竜族として必要な魔法が苦手だからではないかと思い至ってしまった。

 今までの苦労を思って、少し胸が痛くなる。

 これからは魔道具も使うことで、エルベルトの人生がより楽しくなったらいい。カトリーヌは心からそう願った。

 そんな中で、バルザが壁のない巨大な建物を示して告げる。

「我は向こうで休んでくる。エルベルトはカトリーヌに集落を案内してやるといい。ナーヴァルは我の食事を頼むぞ」
「はいはい。じゃあエルベルトとカトリーヌ、またあとでね。カトリーヌは集落を楽しんで」
「はい。ありがとうございます」

 とても賑やかな二人が去っていったら、場には沈黙が満ちた。しかしそれは気まずい沈黙ではない。カトリーヌとエルベルトは顔を見合わせると、同時に笑い合う。

「騒がしくてすまない」
「いえ、とても楽しいです」
「そう言ってもらえて良かった。では……少し集落の中を案内しつつ、家に向かおう。実家はまた別なんだが、何人かの兄妹で一緒に住んでる家があって、妹もそこにいるんだ」

 実家ではないという話にカトリーヌは少しホッとした。エルベルトの両親に会うのかもしれないと緊張していたのだ。

 会うとしても人間の魔道具師として会うだけなので、特別な緊張はいらないのだが、カトリーヌはもうエルベルトの両親を特別視してしまっていた。
 しかしそれと同時に、特別視したところで意味はないのだという少しの胸の痛みも感じる。

 その全てをカトリーヌは気にしないことにして、エルベルトに笑みを向けた。

「案内よろしくお願いします」
「ああ、任せてくれ」

 エルベルトに付いて集落の中に向かいながら、カトリーヌは問いかけた。

「竜族の皆様は、人間が集落に来ることについて悪感情のようなものはないのでしょうか」

 竜族は人間よりも高位の存在として、カトリーヌたちは認識していたのだ。そのため、竜族からしたら下位の存在が自らの居住区に足を踏み入れるのは嫌ではないのかと少し心配をしていた。

 今のところ誰からも嫌な態度を取られておらず、カトリーヌは少し不思議なぐらいだ。

「悪感情はないだろう。珍しいことだから声をかけられることは多いかもしれないが、それだけだな。竜族は基本的に人間に対して悪い印象は持っていないし、何よりも集落にいるということは竜族の誰かが招待したということなので、歓迎の気持ちが強いのだ」

 言われてみればその通りだった。この集落に竜族の案内なしで辿り着くのはほぼ不可能なのだ。

「また竜族は基本的に細かいことは気にせず、マイペースな者が多いからな。それによって俺が攻撃魔法を苦手なことも、誰かに馬鹿にされたことはない。大変なのは、誰もがその事実を忘れて俺に難しい指示を気軽にしてくることぐらいだな」

 苦笑しながら告げたエルベルトは、そんな竜族のことが好きなようだった。

 しかし、実際に大変だったことは事実だろう。

「そのような雰囲気ならば、魔道具はとても役に立てるかもしれませんね」

 細かいことは気にしないならば、魔法が苦手でも魔道具でそれを代用していれば、誰も気にしないということになる。

 エルベルトの妹は、魔道具によって普通に暮らせるようになるかもしれない。

「ああ、だからワクワクしている。早く妹にカトリーヌを紹介したいな」
「わたしも早くお会いしたいです。そしてもちろん、エルベルト様の魔道具も完璧な形に完成させてみせます」

 付け足したカトリーヌの言葉に、エルベルトは嬉しそうに表情を和らげると、どこか遠くを眺めながら口を開いた。
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