愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜
34、エルベルトの話と集落の実情
「俺も、もっとこの場所を好きになれるかもしれないな」
思わず溢れたというような呟きに、カトリーヌは反応していいのか悪いのか悩み、最終的には口を開いた。
「先ほどエルベルト様が少し人見知りだというようなお話がありましたが、それはやはり魔法によるものでしょうか……」
「そう、だな。自分では普通にしているつもりだったが、やはり少し他人との間に壁を作っていたのだろう。普通から外れているというのは、どうしても気後れしてしまう」
エルベルトが告白してくれた気持ちが、カトリーヌはとてもよく分かった。カトリーヌも貴族令嬢に求められる社交が苦手で、貴族令嬢としては異質な魔道具作りが得意だった。
竜族として当たり前に使える攻撃魔法が苦手で、繊細な魔法が得意なエルベルトと境遇は似ているのだ。
「特に虐められたりしたわけではないから、俺の心が弱かっただけなのだが」
困ったように笑ったエルベルトに、カトリーヌはすぐ首を横に振る。
「いえ、エルベルト様が弱かったのではなく仕方がないことです。エルベルト様はそんな中でも努力をされて、強い攻撃魔法も自力で身につけられ、本当に凄いと思います。わたしはいつまでも苦手な社交を克服できずに……」
つい後ろ向きなことを言ってしまったカトリーヌに、今度はエルベルトが首を横に振った。
「いや、カトリーヌは必死に努力していたじゃないか。あのセドリックの婚約者として王妃教育にも取り組んでいたのだろう?」
「それは、そうですが……」
カトリーヌとしては義務をこなしていただけという気持ちである。最低限以上のことはできなかったし、しなかった。
「それは凄いことだ。あのセドリックの婚約者として何年もいただけで凄い」
力強く言ってくれるエルベルトの言葉は、カトリーヌの胸に届いた。なんだか、もう少し自分を認めてもいいのかもしれないと思うことができる。
「ありがとう、ございます」
様々な感情が胸に渦巻いて言葉が詰まりながら、カトリーヌはなんとか礼を伝えた。
するとまた、エルベルトが困ったように笑う。
「礼を伝えるべきはこちらなのだがな。魔道具のおかげで、これからは今まで以上に皆との距離が近づきそうだ」
魔道具によってエルベルトの憂いが少しでも晴れるなら、これ以上嬉しいことはない。そう思ったカトリーヌは心からの笑顔になる。
「良かったです」
その笑顔でエルベルトを見上げると、エルベルトは何かに耐えるように唇を引き結び、カトリーヌの髪を一房手にした。
「カトリーヌは本当に心が綺麗だな」
「え、わたし、ですか?」
初めて言われた褒め言葉に、つい動揺してしまう。
「ああ、とても美しい」
それは心の話なのか、外見も込みなのか。エルベルトの少し熱のこもった眼差しに、カトリーヌは耐えられずに視線を地面に落とした。
「あ、ありがとう、ございます」
二人の間に流れる空気は生温かいような、少し居心地が悪いような感じだ。
何か言わなければ。少し焦ったカトリーヌが顔を上げると、目の前には……。
「か、べ?」
道が行き止まりになっており、身長より高い壁があったのだ。集落の端にあったバルザが着地した場所から集落の中心に向かって歩き、途中に分かれ道のようなものはなかった。
つまり集落に向かうことのできるただ一つの道のはずが、そこが行き止まりになっているのだ。
カトリーヌは目の前の光景を理解できなかった。
「別の道があるのでしょうか……」
不思議な光景にさっきまでの空気は霧散しており、カトリーヌは戸惑いながらエルベルトに問いかける。
すると、あまりにも予想外な答えが返ってきた。
「いや、ここで合ってる。これはつまり……そう、階段だ。人間の国ならここに階段を作るんだろうが、この集落は空を飛べるのが基本だから、階段は基本的にないんだ」
信じられない説明に、カトリーヌは呆然と目の前の壁を見上げることしかできなかった。
つまり、目の前の壁は強いて言えば、一段の階段のようなものってことだ。
「これは、魔法が使えなければあまりにも生きづらいですね」
今までも想像していたつもりだったが、ここに来て初めて、カトリーヌは心からエルベルトの妹の境遇に同情した。この集落の設計で魔法が使えないのは、不便どころの話じゃないだろう。生活が不可能なはずだ。
「そうなんだ。だから妹にとって魔道具は、まさに人生を救うものになるだろう」
カトリーヌは改めて気合いを入れた。
(完璧な魔道具にしなければ)
これまでの人生で不便で辛いことがたくさんあったのだろうから、せめて希望を見出す魔道具は完璧にしなければと思った。
魔道具の不備によって、また不便で辛いことが起きないように。
「カトリーヌ、また抱えても良いだろうか。上に飛びたい」
「はい、もちろんです。よろしくお願いします」
あまりの衝撃で、カトリーヌは普通に反応した。エルベルトの腕が腰に回っても、まだ集落の作りへの驚きが勝っている。
そんな中で壁の上に上がると、そこは左右に倉庫のような建物が立つ道だった。しかし明らかに路地というような雰囲気の場所なのに、道は馬車が何台もすれ違えそうなほどに広い。また驚きながら少し歩いて大通りに出ると、そこは道路の向こう側がよく見えないほどに広かった。
「なんでこんなに……」
「集落の道は、ほとんどの場所で竜たちが歩いて通れるようになってるんだ。だから広さはかなりある」
竜が使うからと言われれば、納得するしかなかった。
なんだか自分が小人になったような、そんな錯覚をしてしまうカトリーヌだ。
さらに大きさだけでなく、その道を通っている竜族たちにも驚愕する。誰も乗り物には乗っておらず、自らの体だけで移動しているのはいいとして、空を高速で飛んでいたり、残像が残るほどの速度で道を走っていたり、ぶつかったら命が危ないような速度で移動している者が大半なのだ。
それなのに、少し見ていただけだが、衝突は起きていない。道を横切る者もいるのに、その場合も皆が自然と危険を回避しているようだった。
「高い身体能力と魔法がなければ、街を歩くのさえ難しいですね……」
それからも道が途切れており、建物の上を風魔法で飛んで向かうしかないお店があったり、竜が入れる大きさに設計された巨大な建物があって、そもそも入るのに身長より高い段差を飛び越えなければならず、さらに大きくて重すぎる扉を開けなければいけなかったり、集落の中を少し歩くだけで驚きの連続だった。
思わず溢れたというような呟きに、カトリーヌは反応していいのか悪いのか悩み、最終的には口を開いた。
「先ほどエルベルト様が少し人見知りだというようなお話がありましたが、それはやはり魔法によるものでしょうか……」
「そう、だな。自分では普通にしているつもりだったが、やはり少し他人との間に壁を作っていたのだろう。普通から外れているというのは、どうしても気後れしてしまう」
エルベルトが告白してくれた気持ちが、カトリーヌはとてもよく分かった。カトリーヌも貴族令嬢に求められる社交が苦手で、貴族令嬢としては異質な魔道具作りが得意だった。
竜族として当たり前に使える攻撃魔法が苦手で、繊細な魔法が得意なエルベルトと境遇は似ているのだ。
「特に虐められたりしたわけではないから、俺の心が弱かっただけなのだが」
困ったように笑ったエルベルトに、カトリーヌはすぐ首を横に振る。
「いえ、エルベルト様が弱かったのではなく仕方がないことです。エルベルト様はそんな中でも努力をされて、強い攻撃魔法も自力で身につけられ、本当に凄いと思います。わたしはいつまでも苦手な社交を克服できずに……」
つい後ろ向きなことを言ってしまったカトリーヌに、今度はエルベルトが首を横に振った。
「いや、カトリーヌは必死に努力していたじゃないか。あのセドリックの婚約者として王妃教育にも取り組んでいたのだろう?」
「それは、そうですが……」
カトリーヌとしては義務をこなしていただけという気持ちである。最低限以上のことはできなかったし、しなかった。
「それは凄いことだ。あのセドリックの婚約者として何年もいただけで凄い」
力強く言ってくれるエルベルトの言葉は、カトリーヌの胸に届いた。なんだか、もう少し自分を認めてもいいのかもしれないと思うことができる。
「ありがとう、ございます」
様々な感情が胸に渦巻いて言葉が詰まりながら、カトリーヌはなんとか礼を伝えた。
するとまた、エルベルトが困ったように笑う。
「礼を伝えるべきはこちらなのだがな。魔道具のおかげで、これからは今まで以上に皆との距離が近づきそうだ」
魔道具によってエルベルトの憂いが少しでも晴れるなら、これ以上嬉しいことはない。そう思ったカトリーヌは心からの笑顔になる。
「良かったです」
その笑顔でエルベルトを見上げると、エルベルトは何かに耐えるように唇を引き結び、カトリーヌの髪を一房手にした。
「カトリーヌは本当に心が綺麗だな」
「え、わたし、ですか?」
初めて言われた褒め言葉に、つい動揺してしまう。
「ああ、とても美しい」
それは心の話なのか、外見も込みなのか。エルベルトの少し熱のこもった眼差しに、カトリーヌは耐えられずに視線を地面に落とした。
「あ、ありがとう、ございます」
二人の間に流れる空気は生温かいような、少し居心地が悪いような感じだ。
何か言わなければ。少し焦ったカトリーヌが顔を上げると、目の前には……。
「か、べ?」
道が行き止まりになっており、身長より高い壁があったのだ。集落の端にあったバルザが着地した場所から集落の中心に向かって歩き、途中に分かれ道のようなものはなかった。
つまり集落に向かうことのできるただ一つの道のはずが、そこが行き止まりになっているのだ。
カトリーヌは目の前の光景を理解できなかった。
「別の道があるのでしょうか……」
不思議な光景にさっきまでの空気は霧散しており、カトリーヌは戸惑いながらエルベルトに問いかける。
すると、あまりにも予想外な答えが返ってきた。
「いや、ここで合ってる。これはつまり……そう、階段だ。人間の国ならここに階段を作るんだろうが、この集落は空を飛べるのが基本だから、階段は基本的にないんだ」
信じられない説明に、カトリーヌは呆然と目の前の壁を見上げることしかできなかった。
つまり、目の前の壁は強いて言えば、一段の階段のようなものってことだ。
「これは、魔法が使えなければあまりにも生きづらいですね」
今までも想像していたつもりだったが、ここに来て初めて、カトリーヌは心からエルベルトの妹の境遇に同情した。この集落の設計で魔法が使えないのは、不便どころの話じゃないだろう。生活が不可能なはずだ。
「そうなんだ。だから妹にとって魔道具は、まさに人生を救うものになるだろう」
カトリーヌは改めて気合いを入れた。
(完璧な魔道具にしなければ)
これまでの人生で不便で辛いことがたくさんあったのだろうから、せめて希望を見出す魔道具は完璧にしなければと思った。
魔道具の不備によって、また不便で辛いことが起きないように。
「カトリーヌ、また抱えても良いだろうか。上に飛びたい」
「はい、もちろんです。よろしくお願いします」
あまりの衝撃で、カトリーヌは普通に反応した。エルベルトの腕が腰に回っても、まだ集落の作りへの驚きが勝っている。
そんな中で壁の上に上がると、そこは左右に倉庫のような建物が立つ道だった。しかし明らかに路地というような雰囲気の場所なのに、道は馬車が何台もすれ違えそうなほどに広い。また驚きながら少し歩いて大通りに出ると、そこは道路の向こう側がよく見えないほどに広かった。
「なんでこんなに……」
「集落の道は、ほとんどの場所で竜たちが歩いて通れるようになってるんだ。だから広さはかなりある」
竜が使うからと言われれば、納得するしかなかった。
なんだか自分が小人になったような、そんな錯覚をしてしまうカトリーヌだ。
さらに大きさだけでなく、その道を通っている竜族たちにも驚愕する。誰も乗り物には乗っておらず、自らの体だけで移動しているのはいいとして、空を高速で飛んでいたり、残像が残るほどの速度で道を走っていたり、ぶつかったら命が危ないような速度で移動している者が大半なのだ。
それなのに、少し見ていただけだが、衝突は起きていない。道を横切る者もいるのに、その場合も皆が自然と危険を回避しているようだった。
「高い身体能力と魔法がなければ、街を歩くのさえ難しいですね……」
それからも道が途切れており、建物の上を風魔法で飛んで向かうしかないお店があったり、竜が入れる大きさに設計された巨大な建物があって、そもそも入るのに身長より高い段差を飛び越えなければならず、さらに大きくて重すぎる扉を開けなければいけなかったり、集落の中を少し歩くだけで驚きの連続だった。