愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜
35、ジュースの屋台と妹
カトリーヌが疲れを感じ始めた頃、エルベルトが道の脇で開かれていた屋台に寄ってくれる。その屋台では柑橘系の果物を売っているようだ。
「カトリーヌ、少し冷たいものでも飲んで休憩しないか?」
ありがたい申し出にカトリーヌはすぐに頷く。
「飲みたいです」
「分かった」
カトリーヌが首肯したことに頬を緩めたエルベルトは、屋台の店主に向かって声をかけた。
「オレジか?」
「おうよ。ちょうど美味い時期なんだ。お、エルベルトか、いくつほしい?」
集落は皆が仲良しと聞いていただけあり、知り合いのようだ。
「四つくれ。ジュースにするからカップは二つ頼む」
「はいよ〜」
注文に店主の男はオレジの実を四つと、何も入ってないカップをエルベルトに手渡した。
「皮は必要なかったらそこのボウルに入れといてくれ」
「分かった」
エルベルトは当たり前のように頷くと、オレジの実を手にして魔法を発動させる。皮を器用に剥いて中の実を少し凍らせたら、二つずつカップに入れて、その中で細かく砕いた。
ちょうど冷えて美味しいジュースになったところで魔法を止めたエルベルトは、カップをカトリーヌに一つ差し出す。
「カトリーヌ、このオレジの実は美味そうだ」
「俺が売ってんだから当たり前だろ?」
自慢げな店主の言葉にエルベルトが苦笑を浮かべているのを見つつ、カトリーヌは驚いたままとりあえずカップを受け取った。
美味しそうなジュースを見て、カトリーヌはポツリと呟く。
「これは、購入者がジュースを作る形なのですか?」
カトリーヌの疑問にエルベルトはハッとした様子で気付いたらしい。
「そういえば、この形はここの集落にしかないな。どんな食べ方もできるように、購入者がジュースを作ったり凍らせたりするのが普通なんだ。もちろんそのまま食べてもいい」
妹の不便に意識が向いているエルベルトでも、道を歩けないとか目的地に辿り着けないというような大きな問題に目が向いていて、屋台の形態にまで意識が及んでいなかったのだろう。
「これは魔法が使えなければ厳しいな……他にもそういう屋台はたくさんある」
エルベルトの呟きを聞いて、カトリーヌは屋台の形態も全てを確認しようと思った。全ての屋台で問題なくエルベルトの妹が買い物をできるように、魔道具を作るのだ。
「わたし、頑張りますね」
決意を口にすると、エルベルトも笑顔になった。
「ありがとう。ただ今は、これを飲んで少し休もう。カトリーヌは頑張りすぎだ。疲れているだろう?」
エルベルトの配慮で疲れを思い出して、カトリーヌは少し肩の力を抜いた。
「では、いただきます」
オレジのジュースはカトリーヌも好きなもので、躊躇いなく口に運んだ。ごくりと飲み込むと、とても冷たくて爽やかなジュースが最高に美味しい。甘味が強いが酸味と少しの苦味もあって、とても深い味わいだった。
「美味しいです」
「そうだろ? というか嬢ちゃん、人間だよな。俺久しぶりに見たぜ」
店主の男性の軽い感じに、カトリーヌは本当に竜族の人たちは人間のことを深く気にしないのだなと理解でき、さらに安心した。
「はい。エルベルト様に連れてきていただきました」
「楽しんでくれよな。きっと皆喜ぶぜ」
「ありがとうございます。皆様とお話しできたら嬉しいです」
頬を緩めながらそう言ったカトリーヌに、店主の男は笑顔になる。
「嬢ちゃん可愛いな〜」
下心を感じさせない口調でそう言うと、エルベルトの肩を叩いた。
「色々、ちゃんとしてやれよ?」
「言われなくても分かってる」
そうして美味しいジュースで休憩してから、カトリーヌとエルベルトはまた家に向かった。しばらく歩いたり飛んだりしたところで、大きめの家が見えてくる。
「あそこが兄妹で住んでる家だ」
二階建てのその家は、基本的には石造りのようだった。集落の家は木造のものもあるが、石や煉瓦造りの家も多い。竜が入ることは想定されていない、普通に人間が暮らすのに適した大きさの家だ。
大きな窓がいくつかあり、開け放たれた窓からは揺れるカーテンと室内が見える。室内は綺麗に整えられているようで、庭では野菜や果樹が育てられているのが分かった。
ファーブル王国にあったなら、子爵ぐらいの貴族屋敷という規模感である。
「エルベルト様もあそこに住まれているのですか?」
「そうだ。俺の部屋は二階の角だな。他には妹と兄と弟もいるが、弟はふらふら遊びに出かけていて家にいないことの方が多い。兄も忙しい人で、仕事で出かけてることが多いな」
「ご兄弟が多いのですね」
「そうなんだ。うちはちょっと特殊な立場で……竜族の中ではかなり珍しい。ちなみにもう一人兄がいて、その兄は実家に住んでる」
特殊な立場とはなんだろうと気になったが、聞かれたくないこともあるだろうとカトリーヌは口を閉じた。
家の玄関前に着いて、躊躇いなく中に入っていくエルベルトを見送りながら、カトリーヌは外で待つ。玄関脇の畑を見ると、美味しそうな野菜が実り始めていた。反対側には花壇もあり、ちょうどこの季節に咲く花が植えられているようだ。
可愛らしい花に癒されていると、エルベルトが玄関から顔を出した。
「カトリーヌ、入ってくれ。自由にしてくれて構わない」
許可を受けて、そっと家の中に足を踏み入れる。入ってすぐの場所はエントランスホールとなっていて、綺麗に掃除をされているが、雑然と物が置かれている場所もあった。
使用人によって常に完璧な状態が保たれている屋敷しか知らないカトリーヌにとっては、とても新鮮な光景で少しワクワクしてしまう。またエントランスホールの奥に螺旋階段があるのも目についた。
集落で初めて見る階段である。おそらく妹が暮らしやすいようにと作られたのだろう。
「お兄ちゃん、なに〜?」
家の奥からパタパタと足音が聞こえ、それと共に女性の声が響いた。
一階の廊下の奥から姿を現したのは、小柄で黒髪ストレートがとても美しい女性だ。小顔で手足が長く、着飾って貴族の社交界に出たら、絶対に話題になるだろう容姿をしていた。
しかしそんな美しさをひけらかすような様子は全くなく、おそらくすっぴんで短パンにシャツというラフな格好である。
エルベルトの妹は兄であるエルベルトを見てから、その隣にいたカトリーヌに視線を向けた。カトリーヌの顔を見て、視線を下に落としてその格好を見て、またカトリーヌの顔まで視線を上げてから、突然叫ぶ。
「お、お客さん⁉︎」
「ああ、人間の国に行ってくるって言っただろう? カトリーヌだ。魔道具師で……」
「ちょっと待って! なんで言ってくれないの! こんな格好なんだけど⁉︎」
妹はエルベルトの言葉を遮った。
慌てたように右往左往してから、カトリーヌに向かってガバッと頭を下げる。
「すみませんっ。着替えてくるのでちょっと待っててください! あっ、応接室があるのでそこでお茶でも……お兄ちゃんっ、早く案内して!」
「あ、ああ、分かった」
走って家の奥に向かう妹を見送ってから、カトリーヌは隣のエルベルトを見上げた。するとエルベルトは、申し訳なさそうに眉を下げている。
「すまない。色々と気が利かず……幻滅、しただろうか」
恐る恐るという様子でカトリーヌに視線を向けたエルベルトに、カトリーヌは笑ってしまった。
「ふふ」
エルベルトの普段の様子が垣間見えて、なんだかとても嬉しい。
「幻滅などしていません。早く妹さんに魔道具のことを伝えたかったのですよね。それに、妹さんが元気そうで良かったです」
「ああ、あいつは色々と大変なはずなのに元気なんだ」
そう言ったエルベルトは、妹が消えた廊下の奥を優しい表情で見つめていた。
「もっと元気になってもらわないといけませんね」
「そうだな」
「カトリーヌ、少し冷たいものでも飲んで休憩しないか?」
ありがたい申し出にカトリーヌはすぐに頷く。
「飲みたいです」
「分かった」
カトリーヌが首肯したことに頬を緩めたエルベルトは、屋台の店主に向かって声をかけた。
「オレジか?」
「おうよ。ちょうど美味い時期なんだ。お、エルベルトか、いくつほしい?」
集落は皆が仲良しと聞いていただけあり、知り合いのようだ。
「四つくれ。ジュースにするからカップは二つ頼む」
「はいよ〜」
注文に店主の男はオレジの実を四つと、何も入ってないカップをエルベルトに手渡した。
「皮は必要なかったらそこのボウルに入れといてくれ」
「分かった」
エルベルトは当たり前のように頷くと、オレジの実を手にして魔法を発動させる。皮を器用に剥いて中の実を少し凍らせたら、二つずつカップに入れて、その中で細かく砕いた。
ちょうど冷えて美味しいジュースになったところで魔法を止めたエルベルトは、カップをカトリーヌに一つ差し出す。
「カトリーヌ、このオレジの実は美味そうだ」
「俺が売ってんだから当たり前だろ?」
自慢げな店主の言葉にエルベルトが苦笑を浮かべているのを見つつ、カトリーヌは驚いたままとりあえずカップを受け取った。
美味しそうなジュースを見て、カトリーヌはポツリと呟く。
「これは、購入者がジュースを作る形なのですか?」
カトリーヌの疑問にエルベルトはハッとした様子で気付いたらしい。
「そういえば、この形はここの集落にしかないな。どんな食べ方もできるように、購入者がジュースを作ったり凍らせたりするのが普通なんだ。もちろんそのまま食べてもいい」
妹の不便に意識が向いているエルベルトでも、道を歩けないとか目的地に辿り着けないというような大きな問題に目が向いていて、屋台の形態にまで意識が及んでいなかったのだろう。
「これは魔法が使えなければ厳しいな……他にもそういう屋台はたくさんある」
エルベルトの呟きを聞いて、カトリーヌは屋台の形態も全てを確認しようと思った。全ての屋台で問題なくエルベルトの妹が買い物をできるように、魔道具を作るのだ。
「わたし、頑張りますね」
決意を口にすると、エルベルトも笑顔になった。
「ありがとう。ただ今は、これを飲んで少し休もう。カトリーヌは頑張りすぎだ。疲れているだろう?」
エルベルトの配慮で疲れを思い出して、カトリーヌは少し肩の力を抜いた。
「では、いただきます」
オレジのジュースはカトリーヌも好きなもので、躊躇いなく口に運んだ。ごくりと飲み込むと、とても冷たくて爽やかなジュースが最高に美味しい。甘味が強いが酸味と少しの苦味もあって、とても深い味わいだった。
「美味しいです」
「そうだろ? というか嬢ちゃん、人間だよな。俺久しぶりに見たぜ」
店主の男性の軽い感じに、カトリーヌは本当に竜族の人たちは人間のことを深く気にしないのだなと理解でき、さらに安心した。
「はい。エルベルト様に連れてきていただきました」
「楽しんでくれよな。きっと皆喜ぶぜ」
「ありがとうございます。皆様とお話しできたら嬉しいです」
頬を緩めながらそう言ったカトリーヌに、店主の男は笑顔になる。
「嬢ちゃん可愛いな〜」
下心を感じさせない口調でそう言うと、エルベルトの肩を叩いた。
「色々、ちゃんとしてやれよ?」
「言われなくても分かってる」
そうして美味しいジュースで休憩してから、カトリーヌとエルベルトはまた家に向かった。しばらく歩いたり飛んだりしたところで、大きめの家が見えてくる。
「あそこが兄妹で住んでる家だ」
二階建てのその家は、基本的には石造りのようだった。集落の家は木造のものもあるが、石や煉瓦造りの家も多い。竜が入ることは想定されていない、普通に人間が暮らすのに適した大きさの家だ。
大きな窓がいくつかあり、開け放たれた窓からは揺れるカーテンと室内が見える。室内は綺麗に整えられているようで、庭では野菜や果樹が育てられているのが分かった。
ファーブル王国にあったなら、子爵ぐらいの貴族屋敷という規模感である。
「エルベルト様もあそこに住まれているのですか?」
「そうだ。俺の部屋は二階の角だな。他には妹と兄と弟もいるが、弟はふらふら遊びに出かけていて家にいないことの方が多い。兄も忙しい人で、仕事で出かけてることが多いな」
「ご兄弟が多いのですね」
「そうなんだ。うちはちょっと特殊な立場で……竜族の中ではかなり珍しい。ちなみにもう一人兄がいて、その兄は実家に住んでる」
特殊な立場とはなんだろうと気になったが、聞かれたくないこともあるだろうとカトリーヌは口を閉じた。
家の玄関前に着いて、躊躇いなく中に入っていくエルベルトを見送りながら、カトリーヌは外で待つ。玄関脇の畑を見ると、美味しそうな野菜が実り始めていた。反対側には花壇もあり、ちょうどこの季節に咲く花が植えられているようだ。
可愛らしい花に癒されていると、エルベルトが玄関から顔を出した。
「カトリーヌ、入ってくれ。自由にしてくれて構わない」
許可を受けて、そっと家の中に足を踏み入れる。入ってすぐの場所はエントランスホールとなっていて、綺麗に掃除をされているが、雑然と物が置かれている場所もあった。
使用人によって常に完璧な状態が保たれている屋敷しか知らないカトリーヌにとっては、とても新鮮な光景で少しワクワクしてしまう。またエントランスホールの奥に螺旋階段があるのも目についた。
集落で初めて見る階段である。おそらく妹が暮らしやすいようにと作られたのだろう。
「お兄ちゃん、なに〜?」
家の奥からパタパタと足音が聞こえ、それと共に女性の声が響いた。
一階の廊下の奥から姿を現したのは、小柄で黒髪ストレートがとても美しい女性だ。小顔で手足が長く、着飾って貴族の社交界に出たら、絶対に話題になるだろう容姿をしていた。
しかしそんな美しさをひけらかすような様子は全くなく、おそらくすっぴんで短パンにシャツというラフな格好である。
エルベルトの妹は兄であるエルベルトを見てから、その隣にいたカトリーヌに視線を向けた。カトリーヌの顔を見て、視線を下に落としてその格好を見て、またカトリーヌの顔まで視線を上げてから、突然叫ぶ。
「お、お客さん⁉︎」
「ああ、人間の国に行ってくるって言っただろう? カトリーヌだ。魔道具師で……」
「ちょっと待って! なんで言ってくれないの! こんな格好なんだけど⁉︎」
妹はエルベルトの言葉を遮った。
慌てたように右往左往してから、カトリーヌに向かってガバッと頭を下げる。
「すみませんっ。着替えてくるのでちょっと待っててください! あっ、応接室があるのでそこでお茶でも……お兄ちゃんっ、早く案内して!」
「あ、ああ、分かった」
走って家の奥に向かう妹を見送ってから、カトリーヌは隣のエルベルトを見上げた。するとエルベルトは、申し訳なさそうに眉を下げている。
「すまない。色々と気が利かず……幻滅、しただろうか」
恐る恐るという様子でカトリーヌに視線を向けたエルベルトに、カトリーヌは笑ってしまった。
「ふふ」
エルベルトの普段の様子が垣間見えて、なんだかとても嬉しい。
「幻滅などしていません。早く妹さんに魔道具のことを伝えたかったのですよね。それに、妹さんが元気そうで良かったです」
「ああ、あいつは色々と大変なはずなのに元気なんだ」
そう言ったエルベルトは、妹が消えた廊下の奥を優しい表情で見つめていた。
「もっと元気になってもらわないといけませんね」
「そうだな」