愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜
36、改めて挨拶と魔道具を試す
それから応接室に移動してお茶を飲んでいると、妹が戻ってきた。
今度は可愛らしいドレスを身に纏っていて、薄く化粧もしている。そのままでも十分に魅力的だったが、その魅力がさらに引き出されていた。
「先ほどは申し訳ありませんでした。エルベルトの妹でライアと申します。よろしくお願いいたします」
丁寧な挨拶に、カトリーヌも正式なカーテシーで応える。
「こちらこそ突然の訪問、失礼いたしました。ファーブル王国から参りましたカトリーヌ・コルディエと申します。ライア様、よろしくお願いいたします」
「いえ、悪いのは兄なので気にしないでください。それから私のことはライアで構いません。敬称を付けていただくような存在じゃないですから」
そう言って笑ったライアに迷ったカトリーヌだが、同じぐらいの年齢であるし、仲良くなれたらという思いも込めてもう少し砕けてみることにした。
「では、ライアさんと」
「ありがとうございます。私もカトリーヌさんとお呼びしますね!」
嬉しそうに笑った顔は、天真爛漫でとても可愛らしい。
二人のやりとりを見ていたエルベルトが、少しだけ躊躇ってからカトリーヌに言った。
「カトリーヌ、俺のこともエルベルトで構わない」
妹のライアの呼び方を変えた以上、エルベルトの敬称も取るべきなのかもしれない。しかしカトリーヌにとっては、そちらの方がハードルが高かった。
「……いずれ、でよろしいでしょうか」
やはり最初に会った竜族なので、カトリーヌの中でエルベルトは特に竜族というイメージが強いのだ。さらに慣れてしまった呼び方を変えるのが難しいというのもある。
また貴族社会では、女性は夫さえ『様』を付けたままのことが多いのだ。女性への対応と男性への対応はどうしても変わってしまう。
カトリーヌに断られて落ち込んでいる様子のエルベルトを見て、ライアが告げた。
「お兄ちゃん、カトリーヌさんを困らせないで」
ズバッとそう告げてから、輝く瞳をカトリーヌに向けた。
「それで、カトリーヌさんはなんでここに? 私、人間に会うのって初めてです! とっても可愛い。会えて嬉しいです」
挨拶の時にはしっかりとしていたライアだが、どんどんフレンドリーになっていく姿にカトリーヌは嬉しくなった。気を許してくれている証だろう。
「エルベルト様に招待していただいたんです」
「カトリーヌは魔道具を作れるんだ。お前は魔道具があれば生活がかなり楽になるかもしれないと思って、カトリーヌに相談していた。色々と成り行きもあって、一度ここに来てもらうことになったんだ」
エルベルトが詳しく説明をすると、ライアが目を見開く。
「私のために?」
「ああ」
恥ずかしそうに視線を逸らして頷いたエルベルトに、ライアは満面の笑みを浮かべた。
「お兄ちゃん、ありがとう。嬉しい」
そう伝えてから、カトリーヌにも笑みを向ける。
「カトリーヌさんも、ありがとうございます。魔道具のことは気になってたんです。色々とお話を聞けたら嬉しいです」
「はい。わたしもライアさんの困りごとなどを細かく聞けるとありがたいです。それに応じて魔道具を作りますね」
「本当ですか!」
期待に瞳を輝かせるライアを見て、さらにカトリーヌの中でやる気が沸く。
「もちろんです。さっそく魔道具の話をしますか?」
「ぜひ!」
大きく頷いたライアに、エルベルトは集落に持ってきていた大きな荷物をテーブルに乗せる。その鞄には魔道具やその素材、工具など必要な物が詰め込まれていた。
「実はすでに魔道具の研究を進めていて、すぐにでも試していただけるものもあるんです。エルベルト様にも使っていただいています」
カトリーヌの説明に合わせて、エルベルトが身に付けていた魔道具をライアに示す。
「ほら、これだ。魔道具のおかげで俺も楽になった」
「お兄ちゃんも私ほどじゃないけど、高出力の魔法が苦手だもんね。良かったね」
「ああ、ライアもすぐにハンデがなくなるぞ」
実際にエルベルトが装着しているのを見たからか、ライアの顔に緊張が滲んだ。どうしようもなかった長年の問題が解決するかもしれないとなれば、緊張するのは当然だろう。
カトリーヌは風を起こす魔道具を選んで、ライアに差し出す。
「まずはこれを。靴に付けて使うもので、風魔法で移動を補助してくれます。ちなみにわたしたちが今まで使っていた魔道具は、そこまで大きな出力を出せませんでした。しかしエルベルト様にご協力いただいた研究によって、竜族の皆様の魔力を使うことで、魔道具を高性能にすることができるようになりました。これはその高性能版です」
緊張しながら魔道具を受け取ったライアは、その作りをまじまじと観察する。
「何で作られているのですか……?」
「エネルギー源としているのは魔鉱石です。それ以外の素材は魔道具によって異なりますが、金属やゴム、木材、獣の素材なども使うことがあります」
「凄い技術ですね」
しばらく観察してから、エルベルトに付け方を聞いて、ライアは魔道具を靴に装着した。ドレスに合わせたヒールを履いていたので、靴底の平らな靴に履き替えている。
「最初は俺と一緒に使ってみよう。慣れればライアでも使いこなせるはずだ。そこまで難しいものではない」
正直なところ、使いこなすには結構な身体能力が必要なのだが、ライアは竜族の中では病弱なだけで人間の中では普通、もしくは普通より上なので、おそらく問題はない。
エントランスホールに三人で向かい、エルベルトは螺旋階段の行き先である二階の廊下を指差した。二階の廊下の一部が、一階から柵の向こうに見える形になっているのだ。柵は人の背丈の胸あたりまでしかないので、竜族なら魔法でジャンプして二階に行ける形だ。
「二階に一緒に飛んでみよう。ライアは自分の力じゃ無理だったな?」
「うん。私は飛べて一メートルぐらいだから」
その言葉に頷いたエルベルトは、カトリーヌにしていたようにライアの腰を抱いた。その光景にカトリーヌは、少しだけモヤッとした気持ちを抱える。
(ライアさんは家族だって。それに、わたしにエルベルト様の交友関係に口出しする権利はないから……)
頭を振って変な考えを振り払っていると、ライアが手元で操作できるように改良したスイッチを押した。手元にスイッチを動かしたことで、発動までの時間は一秒に短縮してある。
「きゃあぁっ」
スイッチを入れてすぐに、ライアと支えるエルベルトが宙に飛んだ。
しかし飛ぶ方向が悪く、天井にぶつかりそうになったところで、エルベルトが魔法を使って勢いを殺した。さらに風魔法で調節して、無事に二階へと降り立つ。
「はぁ、はぁ、びっくりした……」
「真上に飛んだから、思ってたよりも飛距離が出たな」
威力は五段階に設定してあり、今回はエルベルトが二階まで飛ぶのに最適な威力を選んだが、真上に飛ぶのと斜め前に飛ぶのでは、同じ風魔法の威力でも飛距離が変わるのだ。
「でも、これ凄いね! 慣れたら凄く便利に使えそう」
「ああ、自在に動き回れるようになるだろう」
それから何回かエルベルトと共に飛んだことで、ライアはコツを掴んだらしい。すぐに一人で一階と二階を行き来できるようになった。
今度は可愛らしいドレスを身に纏っていて、薄く化粧もしている。そのままでも十分に魅力的だったが、その魅力がさらに引き出されていた。
「先ほどは申し訳ありませんでした。エルベルトの妹でライアと申します。よろしくお願いいたします」
丁寧な挨拶に、カトリーヌも正式なカーテシーで応える。
「こちらこそ突然の訪問、失礼いたしました。ファーブル王国から参りましたカトリーヌ・コルディエと申します。ライア様、よろしくお願いいたします」
「いえ、悪いのは兄なので気にしないでください。それから私のことはライアで構いません。敬称を付けていただくような存在じゃないですから」
そう言って笑ったライアに迷ったカトリーヌだが、同じぐらいの年齢であるし、仲良くなれたらという思いも込めてもう少し砕けてみることにした。
「では、ライアさんと」
「ありがとうございます。私もカトリーヌさんとお呼びしますね!」
嬉しそうに笑った顔は、天真爛漫でとても可愛らしい。
二人のやりとりを見ていたエルベルトが、少しだけ躊躇ってからカトリーヌに言った。
「カトリーヌ、俺のこともエルベルトで構わない」
妹のライアの呼び方を変えた以上、エルベルトの敬称も取るべきなのかもしれない。しかしカトリーヌにとっては、そちらの方がハードルが高かった。
「……いずれ、でよろしいでしょうか」
やはり最初に会った竜族なので、カトリーヌの中でエルベルトは特に竜族というイメージが強いのだ。さらに慣れてしまった呼び方を変えるのが難しいというのもある。
また貴族社会では、女性は夫さえ『様』を付けたままのことが多いのだ。女性への対応と男性への対応はどうしても変わってしまう。
カトリーヌに断られて落ち込んでいる様子のエルベルトを見て、ライアが告げた。
「お兄ちゃん、カトリーヌさんを困らせないで」
ズバッとそう告げてから、輝く瞳をカトリーヌに向けた。
「それで、カトリーヌさんはなんでここに? 私、人間に会うのって初めてです! とっても可愛い。会えて嬉しいです」
挨拶の時にはしっかりとしていたライアだが、どんどんフレンドリーになっていく姿にカトリーヌは嬉しくなった。気を許してくれている証だろう。
「エルベルト様に招待していただいたんです」
「カトリーヌは魔道具を作れるんだ。お前は魔道具があれば生活がかなり楽になるかもしれないと思って、カトリーヌに相談していた。色々と成り行きもあって、一度ここに来てもらうことになったんだ」
エルベルトが詳しく説明をすると、ライアが目を見開く。
「私のために?」
「ああ」
恥ずかしそうに視線を逸らして頷いたエルベルトに、ライアは満面の笑みを浮かべた。
「お兄ちゃん、ありがとう。嬉しい」
そう伝えてから、カトリーヌにも笑みを向ける。
「カトリーヌさんも、ありがとうございます。魔道具のことは気になってたんです。色々とお話を聞けたら嬉しいです」
「はい。わたしもライアさんの困りごとなどを細かく聞けるとありがたいです。それに応じて魔道具を作りますね」
「本当ですか!」
期待に瞳を輝かせるライアを見て、さらにカトリーヌの中でやる気が沸く。
「もちろんです。さっそく魔道具の話をしますか?」
「ぜひ!」
大きく頷いたライアに、エルベルトは集落に持ってきていた大きな荷物をテーブルに乗せる。その鞄には魔道具やその素材、工具など必要な物が詰め込まれていた。
「実はすでに魔道具の研究を進めていて、すぐにでも試していただけるものもあるんです。エルベルト様にも使っていただいています」
カトリーヌの説明に合わせて、エルベルトが身に付けていた魔道具をライアに示す。
「ほら、これだ。魔道具のおかげで俺も楽になった」
「お兄ちゃんも私ほどじゃないけど、高出力の魔法が苦手だもんね。良かったね」
「ああ、ライアもすぐにハンデがなくなるぞ」
実際にエルベルトが装着しているのを見たからか、ライアの顔に緊張が滲んだ。どうしようもなかった長年の問題が解決するかもしれないとなれば、緊張するのは当然だろう。
カトリーヌは風を起こす魔道具を選んで、ライアに差し出す。
「まずはこれを。靴に付けて使うもので、風魔法で移動を補助してくれます。ちなみにわたしたちが今まで使っていた魔道具は、そこまで大きな出力を出せませんでした。しかしエルベルト様にご協力いただいた研究によって、竜族の皆様の魔力を使うことで、魔道具を高性能にすることができるようになりました。これはその高性能版です」
緊張しながら魔道具を受け取ったライアは、その作りをまじまじと観察する。
「何で作られているのですか……?」
「エネルギー源としているのは魔鉱石です。それ以外の素材は魔道具によって異なりますが、金属やゴム、木材、獣の素材なども使うことがあります」
「凄い技術ですね」
しばらく観察してから、エルベルトに付け方を聞いて、ライアは魔道具を靴に装着した。ドレスに合わせたヒールを履いていたので、靴底の平らな靴に履き替えている。
「最初は俺と一緒に使ってみよう。慣れればライアでも使いこなせるはずだ。そこまで難しいものではない」
正直なところ、使いこなすには結構な身体能力が必要なのだが、ライアは竜族の中では病弱なだけで人間の中では普通、もしくは普通より上なので、おそらく問題はない。
エントランスホールに三人で向かい、エルベルトは螺旋階段の行き先である二階の廊下を指差した。二階の廊下の一部が、一階から柵の向こうに見える形になっているのだ。柵は人の背丈の胸あたりまでしかないので、竜族なら魔法でジャンプして二階に行ける形だ。
「二階に一緒に飛んでみよう。ライアは自分の力じゃ無理だったな?」
「うん。私は飛べて一メートルぐらいだから」
その言葉に頷いたエルベルトは、カトリーヌにしていたようにライアの腰を抱いた。その光景にカトリーヌは、少しだけモヤッとした気持ちを抱える。
(ライアさんは家族だって。それに、わたしにエルベルト様の交友関係に口出しする権利はないから……)
頭を振って変な考えを振り払っていると、ライアが手元で操作できるように改良したスイッチを押した。手元にスイッチを動かしたことで、発動までの時間は一秒に短縮してある。
「きゃあぁっ」
スイッチを入れてすぐに、ライアと支えるエルベルトが宙に飛んだ。
しかし飛ぶ方向が悪く、天井にぶつかりそうになったところで、エルベルトが魔法を使って勢いを殺した。さらに風魔法で調節して、無事に二階へと降り立つ。
「はぁ、はぁ、びっくりした……」
「真上に飛んだから、思ってたよりも飛距離が出たな」
威力は五段階に設定してあり、今回はエルベルトが二階まで飛ぶのに最適な威力を選んだが、真上に飛ぶのと斜め前に飛ぶのでは、同じ風魔法の威力でも飛距離が変わるのだ。
「でも、これ凄いね! 慣れたら凄く便利に使えそう」
「ああ、自在に動き回れるようになるだろう」
それから何回かエルベルトと共に飛んだことで、ライアはコツを掴んだらしい。すぐに一人で一階と二階を行き来できるようになった。