愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜

39、エルベルトの実家

 しばらく移動すると建物が見えてきて、二人の実家は竜も入れるような大きな作りだ。遠くからでもその存在を確かめることができた。

「お父さんとお母さんいるかな」
「この時間ならいるだろう。それよりも夕食を三人分増やしてもらわなければ」
「確かに!」

 二人の呑気な会話を聞きつつ、カトリーヌは緊張している。

 エルベルトの両親に会うからというのも理由の一つだが、何よりも勝手に竜族の魔力を使って魔道具の改良をしてしまったことが気がかりなのだ。

 そんな緊張感が伝わったのか、エルベルトが空を飛びながらカトリーヌの顔を覗き込む。

「カトリーヌ、大丈夫か? 何の心配もいらないぞ」
「はい、ありがとう、ございます」
「何もないだろうが、何かあれば絶対に助ける」

 エルベルトのその言葉には説得力があり、カトリーヌは強張っていた体から少し力が抜けるのを感じた。

「とても心強いです」

 カトリーヌの変化を敏感に感じ取ったのだろうエルベルトは、柔らかい笑みを浮かべる。それを間近で見てしまい、カトリーヌは自分の頬が赤くなるのを感じた。

(エルベルト様は、優しすぎるわ)

 嬉しいのだが、今のカトリーヌにとっては残酷な優しさでもある。

 これ以上惹かれてしまわないようにとカトリーヌが自らの心を律していると、二人の実家前に到着した。着地したところで、すぐに使用人らしき女性が顔を出す。

「まあ、エルベルト様とライア様。お帰りなさいませ。ライア様は……もしかして、飛んでこられたのですか!」
「そうなの。実はカトリーヌさんが、私用に魔道具を作ってくれて――」

 さっそく嬉しそうに話をするライアと女性は、一緒に家の中に入っていった。二人の後に、エルベルトにエスコートされる形でカトリーヌも続く。

 天井の模様が見えないほど高いエントランスホールに、カトリーヌがつい上を見上げてしまっていると、女性が興奮を隠せない様子で言った。

「ライア様が普通に生活できるようになるなんて! 早く旦那様と奥様にお伝えしなくては! 皆様、応接室でお待ちください。すぐにお二人を呼んで参ります!」

 使用人とはいえ主人一家とも距離が近いようで、女性は慌てて家の中に向かって駆けていった。そんな女性を何事もなかったように見送り、エルベルトは廊下の先を示す。

「向こうに応接室があるからそこにいよう」
「分かりました」

 カトリーヌは建物の大きさだけでなく文化の違いにも驚いたが、ここは竜族の集落なのだからと受け入れた。

(ファーブル王国では、エルベルト様がわたしたちに合わせてくださっていたのね)

 おそらくエルベルトにとって、ファーブル王国の貴族の暮らしは窮屈だっただろう。

 その事実に改めて気づく。

 隣にいるのにエルベルトのことを遠く感じていると、応接室に入ってすぐに慌ただしい足音が聞こえてきた。

 勢いよく開いた扉から入ってきたのは、二人の男女だ。
 おそらくエルベルトの両親だろうが、カトリーヌが想像していたよりも若く見えた。父親はエルベルトによく似ていて、母親はとても美人だが優しい雰囲気である。

「ライアが普通に暮らせるようになったというのは本当か!」
「ここまで飛んできたと聞いたわ!」

 二人の大きな声にカトリーヌが驚いていると、エルベルトが呆れた表情で言った。

「父上、母上、そんなに取り乱さないでください。客人の前ですよ」

 その言葉で、二人の視線はカトリーヌに固定される。

「そうだったな。すまない」
「驚いてしまって……取り乱してごめんなさい。エルベルト、紹介をお願いしても良いかしら」

 落ち着きを取り戻した二人がソファーに腰掛けたところで、その向かいのソファーに改めてカトリーヌとエルベルトも腰掛け、ライアはテーブルの短辺に置かれた一人用のソファーに座った。

「こちらはカトリーヌです。ファーブル王国から来てくれました。魔道具製作の高度な技術を有しています。カトリーヌの作る魔道具によって、ライアは普通に暮らせるようになるでしょう」
「カトリーヌ・コルディエと申します。よろしくお願いいたします」

 エルベルトの紹介を受けてカトリーヌが挨拶をすると、一度はソファーに腰掛けたエルベルトの両親が立ち上がり、カトリーヌの手をがっしり掴む。

「この度はありがとう。歓迎する」
「よく来てくれたわ。魔道具という存在は知っていたけれど、まさかライアを助けるようなものがあるなんて。あなたは凄い技術者なのね」
「魔道具について詳細を教えてもらえるだろうか」

 前のめりな両親に少し戸惑いながらも、カトリーヌは内心でホッとしていた。
 ひとまず悪印象は持たれていないようだ。

 しかし、魔道具の改良に魔力を使ったことを説明したら、どう思われるか分からない。カトリーヌはまだ気を抜かずに、エルベルトの両親に向かって頷く。

「はい。ご説明させていただきます」

 それからカトリーヌはエルベルトとライアの手も借りつつ、二人に向けて魔道具の説明をした。

 緊張しながら竜族の魔力によって魔鉱石に変化を生じさせる話もしたが、勝手な研究を咎められるようなことはなかった。むしろ大きな興味を持ってくれたようだ。

「まさか魔力が魔鉱石にそんな影響を及ぼすとは」
「カトリーヌさんは素晴らしいわ」
「我々の力と人間の持つ技術力を組み合わせることで、高性能な魔道具になるのだな……面白い」
「まだこれからライアのための魔道具をたくさん開発してくれるのでしょう? もし私に手伝えることがあれば、いつでも言ってほしいわ」
「私も力になろう」

 竜族の長であるエルベルトの両親の協力を得られたことは、とても大きなことだ。

 カトリーヌはなんの憂いもなくなり、ライアやエルベルトのために魔道具研究・開発に邁進できることが嬉しかった。

「ありがとうございます。お力をお借りしたい時には声をかけさせていただきます」

 カトリーヌのそんな返答を聞きながら、エルベルトの父親が真剣な表情で呟く。

「やはり人間との交流は大切だな。今は個人レベルでの交流のみだが、これを機会にしっかりと協力関係を築くべきか……。ひとまずカトリーヌ嬢とはこれからも関係を築いていきたいのだが、どうだろうか。ライアの使う魔道具の研究やメンテナンスなど、色々と頼みたい。もちろん報酬などについても話し合いたいと思っている」

 ありがたい申し出に、カトリーヌとしては断る理由はなかった。

「ありがとうございます。わたしとしては、これからも尽力させていただけたら嬉しいと思っています。ただわたしはファーブル王国に属する身でして、父親であるコルディエ侯爵とファーブル王国のトップである国王陛下にご確認しなければなりません。問題ないとは思いますが、正式な回答は確認後でもよろしいでしょうか」

 ダメだと言われる可能性は限りなく低いと思いつつ、一応即答は避けると、エルベルトの父親は気にすることなく頷いてくれる。

「もちろん、それで構わない。よろしく頼む」

 魔道具は定期的なメンテナンスや魔鉱石の取り替えなどが必要であるため、ライアの魔道具の管理をカトリーヌがすることになれば、カトリーヌはこれからも継続して竜族やライア、そしてエルベルトと関係を続けていくことになる。

 僅かだとしても、これから先もエルベルトとの繋がりが途切れない可能性が嬉しかった。

「カトリーヌ、ありがとう。これからもよろしく頼む」

 隣のエルベルトにそう声をかけられ、カトリーヌは笑顔になった。

「はい」
「カトリーヌさん、これから末長くよろしくね!」
「こちらこそよろしくお願いします」

 ライアとも笑い合い、カトリーヌは胸が温かくなるのを感じる。

 それからは真面目な話が終わりとなり、カトリーヌの歓迎会として夕食会が開かれた。とても温かくて楽しい席で、エルベルトの家族団欒に混じることができたその時間は、少しだけ場違いなような申し訳なさも感じたが、それよりも楽しくて幸せだった。
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