愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜

41、通じ合う気持ち

「エ、エルベルト様?」
「カトリーヌには、ずっと笑顔でいてほしいんだ。だから何か憂いがあるなら言ってほしい」

 強い気持ちが籠ったその言葉は、カトリーヌの胸の深いところに届いた。

 もしかしたら、エルベルトも自分と同じ気持ちなのかもしれない。そんな期待を抱いてしまうほど。

 カトリーヌから少し体を離したエルベルトが顔を覗き込み、涙が止まっていることに気づくと笑顔になる。

「良かった。涙は止まったな」

 そう言いながら涙の跡を指先で拭うようにしたエルベルトに、カトリーヌは無意識のうちに問いかけていた。

「なんで、そんなに優しいのですか……?」

 カトリーヌの問いに、エルベルトは真剣な表情になる。

 そよ風が頬を撫でた。

 二人の間に少しの沈黙が流れ、カトリーヌから体を離したエルベルトが告げる。

「カトリーヌのことが――好きなんだ。俺がずっと隣にいて、カトリーヌの笑顔を守りたい。共に生きていきたいと、そう思っている」

 信じられない言葉に、カトリーヌはすぐに反応することができない。

「最初は自らを犠牲にしても他人のことを思えるカトリーヌの美しい心に、危うさと共に守りたいという気持ちが湧いたんだ。それから一緒に過ごすうちに、可愛らしい部分やかっこいいところ、少し抜けているところなども知って、強く惹かれていった」

 しかしエルベルトの言葉が続くと共に、じわじわと嬉しさが胸中に広がっていった。

「ただ、カトリーヌは婚約破棄をしたばかりで、まだ気持ちが落ち着いていない頃だと思う。だからこの気持ちを伝えるのはもう少し先に……と思っていたのだが、我慢できなくてすまない。返事は後で構わないから、真剣に考えてもらえると……」

 カトリーヌも自分のことを好きだとは微塵も思っていないようなエルベルトの言葉に、カトリーヌは嬉しさや驚きから言葉が詰まりながらも、必死に口を開いた。

「あのっ、わたしも、エルベルト様をお慕いしております……! 家族思いでとてもお優しいところや、努力家なところなど、どうしても惹かれてしまって、離れるのが寂しいと」

 カトリーヌからの告白に目を見開いたエルベルトは、顔を真っ赤に染めたカトリーヌを見て嬉しそうに口元を緩ませた。

「もしかして、それで泣いていたのだろうか」
「…………はい」

 恥ずかしすぎて消え入りそうな声になったが、エルベルトの耳には届いたようだ。

「カトリーヌ、ありがとう。嬉しい」

 また抱きしめられて、今度はカトリーヌからも控えめに抱きしめ返す。

 まだ信じられないが、エルベルトと気持ちを通じ合わせることができて、あまりの嬉しさにふわふわと夢見心地だ。

「わたしも、嬉しいです」

 先ほどまでと全く同じ景色なのに、全てがキラキラと輝いて見えた。

 しばらく抱き合ってから体を離したエルベルトは、今までで一番の笑顔で告げる。

「カトリーヌ、これからもずっと一緒にいよう」
「はい。……はいっ」

 今度は嬉しすぎて、涙が溢れてしまった。

「ははっ、今日はカトリーヌの泣き顔を何度も見る日だな」
「すみません……嬉しくてっ」
「ああ、俺も嬉しい」

 涙を指先で拭ったエルベルトは、カトリーヌを愛おしそうに見つめている。至近距離で見つめられ、カトリーヌの顔はさらに真っ赤だ。

 それからしばらく幸せを噛み締め、二人で庭のベンチに腰掛けたところで、エルベルトが少し表情を引き締めてから問いかけた。

「カトリーヌ、コルディエ侯爵家は俺との婚姻に反対する可能性はあるか?」
「いえ、それは絶対にないです。国も問題ないと思います」

 侯爵は大喜びだろうし、国も竜族との強い結びつきに反対する可能性は限りなく低いのだ。

「エルベルト様の方は、大丈夫でしょうか」

 少し不安に思いながら問いかけたカトリーヌに、エルベルトは笑顔で頷く。

「全く問題ない。誰もが喜んでくれるだろう」
「良かった、です」

 ホッと頬を緩めたカトリーヌに、エルベルトも同じような笑顔になった。

「ファーブル王国には一緒に帰ろう。そして正式に婚約などを認めてもらわなければ。もう、王国は落ち着いているだろうか」

 カトリーヌたちが王都を出てから一週間以上が経っている。

 パーティーの最後の様子からして国王が主導となり動いたとすれば、一週間は十分な期間だ。

「そろそろ落ち着きを取り戻しているのではないかと」
「では、魔道具の研究には区切りがついたことだし、近いうちに戻ろう。早く俺たちの仲を認めてもらいたいからな」

 まっすぐそう言ってくれるエルベルトにとても嬉しい気持ちが湧いてくるが、それ以上に恥ずかしくもなるカトリーヌだった。

「そ、うですね。お父様は少し驚くかもしれません。コレットは大喜びしそうです」

 二人を思い浮かべるとドキドキとうるさい心臓が少し落ち着いて、嬉しい気持ちが勝った。カトリーヌも早く報告をしたいと思う。

「コレットには何か大きな礼をしなくてはいけないな。コレットの作戦によってカトリーヌは婚約破棄を成し遂げられたのだ。今でもまだカトリーヌがあの王子の婚約者だと考えると……」

 セドリックを思い浮かべて剣呑な雰囲気になっているエルベルトに、カトリーヌも心から同意しながら頷いた。

「本当に、コレットには感謝しています。お礼と共に、今度はコレットの幸せのために動きたいです」

 何ができるのか分からないが、カトリーヌはコレットのためならなんでもやる気である。

「そうだな。俺も協力しよう」

 竜族であるエルベルトがコレットの幸せのために動いたら、コレットはなんでも実現できそうだ。張り切って動くコレットが目に浮かび、カトリーヌは嬉しくなった。

「なんだか、帰りたくなってきました」
「では明日にでも帰ろう。俺の両親への報告は、カトリーヌの方で許可を得てからで問題ない。そちらの方が複雑だからな」
「かしこまりました。では帰る準備をしなければ」

 立ち上がった二人の間には、甘く幸せな空気が流れている。

 辛く寂しい帰り支度になる予定だったが、エルベルトと結ばれたカトリーヌは、いつでも集落を訪れることができる立場だ。

 ライアとも次の約束を交わし、カトリーヌはエルベルトと共に笑顔で集落を後にした。
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