最強令嬢の一目惚れ
最強との出会い
貴族も王も関係なく身分を秘匿して通う学校。それがイコーリティ学校。
今日も身分を伏せたまま、婚約者を探す最強の令嬢がひとり――。
朝、エレナが登校してまず消化するべきものは生徒との決闘。
先生に用意してもらったスペースで、一人一人丁寧に白旗を上げさせていく。
今朝のノルマは100人だ。
「終わりね」
「ま、参りました……」
エレナが魔法を一振りしただけで尻餅をついて失格となった生徒、防御魔法を唱えて凌いだかと思えば、魔力不足で攻撃に転換できなかった生徒。
たくさんの生徒と戦ったが、エレナにとっては赤子の手をひねるよりも簡単だった。
今はだいぶ廃れてしまっているが、エレナの血族は戦力、知力、何をとっても最強と言われていた。
加えて、エレナは最強の再来と言われるほどの実力者だ。
それでも、彼女に挑む者が後を絶たないのは、エレナの隠しきれない品性にあった。
きっとあの方は爵位の高い女性だ。もしかしたら、王女かもしれない。
学校の秘匿性が生んだ、ただの推測に過ぎない。
それでも、誰もが上位の存在だと確信していた。
「魔法を封じた方がいいのかしら……」
エレナは大きくため息をついてがっくりと肩を落とした。
隣でエレナの鞄を持っていた彼女の友人は、エレナの魔法で伸びてしまっている生徒を一瞥して苦笑いを浮かべる。
「魔法学校で魔法を封じるのは、違うと思うわ……」
「それもそうね。私は強い人と結婚したいんだもの」
鞄を友人から受け取り、別々の教室へと向かう。席は自由なので、エレナは窓際の適当な席へと着いた。
すでに教室にいた生徒たちがエレナを見て、「今日もお美しい」などうっとりとした表情で語る。
他にも「あんなに強いなんて知らなかった。申し込んじゃったけど辞退しようかな」など震える声で言う生徒も複数いた。
「いつ見つけられるのかしら、私だけの王子様……」
窓から青い空を眺め、エレナは恋する乙女のように甘いため息を吐いたのだった――。
ある日、交換留学生がエレナと同じクラスにやってきた。
エレナのクラスは特進クラス。学力で決まるクラスであり、知識に関しては折り紙付きだ。
また、エレナはが告げていた。
彼は、強い。
「もしかして、私の王子様!? ……いえ、まだ決めるのは早いわ」
すぐにでも告白してしまいそうな自分に、頭を振る。気分を落ち着かせようとノートにしたためていた、理想の王子像をまとめたページを開く。
「見た目と知識は申し分なし。あとは力と品性……」
前の席に座った留学生をチラリと盗み見る。
スラリとした体型。手入れされた髪や爪。肌に傷はなく、日焼けもない。
まっすぐな背筋に落ち着いた声色。丁寧な動作。
理想と今目の前の現実を照らし合わせ、エレナは一人、口元が緩むのを手で隠す。
「授業が終わったら、早速申し込みましょう」
◇
交換留学生としてやってきた男の名は、レオン。隣国の王子だ。
最初は自身の国で、勉学に励んでいたが、英才教育を受けていた王子にとって学校での授業は退屈なものだった。
そこで父親である王が見かねて、交換留学を提案。
王子は「別の国の知識が学べるのは面白いかもしれない」と了承した。
しかし、王子として留学しては格好の的。レオンはリオという偽名を名乗り、入学することにした。
「交換留学生として来ました。リオと言います。短い期間ですが、仲良くしてください」
リオが微笑めば、女子生徒たちは頬を赤らめリオを見つめた。
その視線は、恋なんて優しいものではない。品定めの眼差しだった。
(どこの国でも、変わらないものだな……)
誰もが爵位の高い男を狙っている。
うんざりしていたレオンは、男子生徒の隣を選び、空いていた席へ会釈をしてから腰を下ろした。
( ……さっきから後ろの席の令嬢が、やけに熱い視線を送ってきているな。 確か視線の先は黄金の髪に、勝ち気そうな瞳)
自己紹介の時も熱心に見つめていたエレナ。それは誰の視線とも違う特別なものだった。
(まるで獲物を見つけた雌ライオンのよう。 抑えている俺の魔力に気づいているのか? ……いや、まさかな)
◇
放課後、エレナは早速リオを捕まえた。
もちろん相手の力を見定めるためにだ。
「……け、結婚してくださいっ!」
エレナは、これまで自分から決闘を申し込んだことがなかった。
そのため、緊張で先走った発言をしてしまった。
「結婚……? 悪いが――」
「間違えましたわ! 決闘をお願いしたいのです!!」
慌てて訂正をするエレナ。しかし、レオンは黙ったままだ。
エレナは何も言わないレオンに、痺れを切らし口をひらく。
「な、何か言ってくださいまし!」
「……ぷっ、ははははは!」
ひとしきり笑った後、リオは呼吸を整えて言った。
「いいだろう。その決闘、受けて立つ。……ただし、俺は手加減の仕方を知らないぞ?」
不敵に微笑むレオンの瞳が、一瞬だけ鋭い赤色に光ったのを、エレナは見逃さなかった。恐怖などない。あるのは、心臓が爆発しそうなほどの高揚感。
(ああ、やっぱり……私の目に狂いはありませんでしたわ!)
――最強令嬢と、正体を隠した最強王子。
二人の、力と誇りで語り合う「求婚攻防」が、今、幕を開けた。
今日も身分を伏せたまま、婚約者を探す最強の令嬢がひとり――。
朝、エレナが登校してまず消化するべきものは生徒との決闘。
先生に用意してもらったスペースで、一人一人丁寧に白旗を上げさせていく。
今朝のノルマは100人だ。
「終わりね」
「ま、参りました……」
エレナが魔法を一振りしただけで尻餅をついて失格となった生徒、防御魔法を唱えて凌いだかと思えば、魔力不足で攻撃に転換できなかった生徒。
たくさんの生徒と戦ったが、エレナにとっては赤子の手をひねるよりも簡単だった。
今はだいぶ廃れてしまっているが、エレナの血族は戦力、知力、何をとっても最強と言われていた。
加えて、エレナは最強の再来と言われるほどの実力者だ。
それでも、彼女に挑む者が後を絶たないのは、エレナの隠しきれない品性にあった。
きっとあの方は爵位の高い女性だ。もしかしたら、王女かもしれない。
学校の秘匿性が生んだ、ただの推測に過ぎない。
それでも、誰もが上位の存在だと確信していた。
「魔法を封じた方がいいのかしら……」
エレナは大きくため息をついてがっくりと肩を落とした。
隣でエレナの鞄を持っていた彼女の友人は、エレナの魔法で伸びてしまっている生徒を一瞥して苦笑いを浮かべる。
「魔法学校で魔法を封じるのは、違うと思うわ……」
「それもそうね。私は強い人と結婚したいんだもの」
鞄を友人から受け取り、別々の教室へと向かう。席は自由なので、エレナは窓際の適当な席へと着いた。
すでに教室にいた生徒たちがエレナを見て、「今日もお美しい」などうっとりとした表情で語る。
他にも「あんなに強いなんて知らなかった。申し込んじゃったけど辞退しようかな」など震える声で言う生徒も複数いた。
「いつ見つけられるのかしら、私だけの王子様……」
窓から青い空を眺め、エレナは恋する乙女のように甘いため息を吐いたのだった――。
ある日、交換留学生がエレナと同じクラスにやってきた。
エレナのクラスは特進クラス。学力で決まるクラスであり、知識に関しては折り紙付きだ。
また、エレナはが告げていた。
彼は、強い。
「もしかして、私の王子様!? ……いえ、まだ決めるのは早いわ」
すぐにでも告白してしまいそうな自分に、頭を振る。気分を落ち着かせようとノートにしたためていた、理想の王子像をまとめたページを開く。
「見た目と知識は申し分なし。あとは力と品性……」
前の席に座った留学生をチラリと盗み見る。
スラリとした体型。手入れされた髪や爪。肌に傷はなく、日焼けもない。
まっすぐな背筋に落ち着いた声色。丁寧な動作。
理想と今目の前の現実を照らし合わせ、エレナは一人、口元が緩むのを手で隠す。
「授業が終わったら、早速申し込みましょう」
◇
交換留学生としてやってきた男の名は、レオン。隣国の王子だ。
最初は自身の国で、勉学に励んでいたが、英才教育を受けていた王子にとって学校での授業は退屈なものだった。
そこで父親である王が見かねて、交換留学を提案。
王子は「別の国の知識が学べるのは面白いかもしれない」と了承した。
しかし、王子として留学しては格好の的。レオンはリオという偽名を名乗り、入学することにした。
「交換留学生として来ました。リオと言います。短い期間ですが、仲良くしてください」
リオが微笑めば、女子生徒たちは頬を赤らめリオを見つめた。
その視線は、恋なんて優しいものではない。品定めの眼差しだった。
(どこの国でも、変わらないものだな……)
誰もが爵位の高い男を狙っている。
うんざりしていたレオンは、男子生徒の隣を選び、空いていた席へ会釈をしてから腰を下ろした。
( ……さっきから後ろの席の令嬢が、やけに熱い視線を送ってきているな。 確か視線の先は黄金の髪に、勝ち気そうな瞳)
自己紹介の時も熱心に見つめていたエレナ。それは誰の視線とも違う特別なものだった。
(まるで獲物を見つけた雌ライオンのよう。 抑えている俺の魔力に気づいているのか? ……いや、まさかな)
◇
放課後、エレナは早速リオを捕まえた。
もちろん相手の力を見定めるためにだ。
「……け、結婚してくださいっ!」
エレナは、これまで自分から決闘を申し込んだことがなかった。
そのため、緊張で先走った発言をしてしまった。
「結婚……? 悪いが――」
「間違えましたわ! 決闘をお願いしたいのです!!」
慌てて訂正をするエレナ。しかし、レオンは黙ったままだ。
エレナは何も言わないレオンに、痺れを切らし口をひらく。
「な、何か言ってくださいまし!」
「……ぷっ、ははははは!」
ひとしきり笑った後、リオは呼吸を整えて言った。
「いいだろう。その決闘、受けて立つ。……ただし、俺は手加減の仕方を知らないぞ?」
不敵に微笑むレオンの瞳が、一瞬だけ鋭い赤色に光ったのを、エレナは見逃さなかった。恐怖などない。あるのは、心臓が爆発しそうなほどの高揚感。
(ああ、やっぱり……私の目に狂いはありませんでしたわ!)
――最強令嬢と、正体を隠した最強王子。
二人の、力と誇りで語り合う「求婚攻防」が、今、幕を開けた。


