推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

近くて遠いお隣さん(7)

 舞台を観ながら、ふとそんなことを考える。
 でも、成瀬さんはプロだもの。きっと喉のケアだって完璧にしているはずだ。
 私は舞台の上から放たれる成瀬さんの存在感に、ただただ圧倒される。そして同時に、少しの寂しさも感じていた。
 舞台上の成瀬さんが、私の前で見せる顔とは違う顔をしているから。
 だから、少しだけ遠く感じてしまうのだろうか。
 そんなことを考えていると、場面は成瀬さんの独唱シーンとなった。
 舞台中央で役の心情を艶やかに歌い上げる、切なく、甘く、耳心地の良い声。
 私は目を閉じて彼の歌声に聞き惚れる。
 成瀬さんは時々ベランダで歌を口ずさんでいた。だから彼の歌声を聞いたのは初めてではなかった。だけど、成瀬さんの“本気の歌声”を私はこの時初めて聞いた。
 ……すごい。声量が違うだけで、こうも聞こえ方は変わるのか。
 感心しながら成瀬さんの歌声に浸っていた私は、ふと我に返り、同時に戸惑いを覚えた。
 あれ? でも、この声って……。
 私が記憶を辿っている間に成瀬さんの独唱は終わり、再び舞台上では物語が進み始める。
 私は思わず隣に座る蓮を見た。
 蓮は私の視線に気づいたのか、一瞬だけこちらを見て、ニヤリと意味深な笑みを浮かべる。そしてまた視線を舞台へ戻した。
 それだけで私は確信した。
 そうだ。……この声は……。
 私は思わず舞台上の成瀬さんを凝視する。
 彼は相変わらず観客の目を惹きつけ、そして魅了している。
 あぁ、やっぱり素敵だ。
 そう思った瞬間、私の胸にズキリと痛みが走った。
 え? なんで?
 疑問が頭に浮かんだちょうどその時、舞台上の成瀬さんが切なげに私を見た気がした。
 だけど、私はすぐにそれを否定した。
 そんなはずない。舞台上から私のことなんて見えるはずがない。だけど……。
 私の胸はドキドキと早鐘を打ち、同時にズキズキとした痛みも感じる。
 この感覚はなんだろう? なんでこんなに胸が痛いの? わからない……。でも、泣きたくなるくらい切ない。
 私はギュッと目を瞑った。
 舞台が終わり、演者が舞台に居並ぶ。拍手が鳴りやまない。観客はスタンディングオベーション。数回のカーテンコールを経て、舞台の幕はやっと下りた。
 私はしばらく椅子から立ち上がれないほどに放心していた。
 夢心地でぼんやりしていると、蓮にポンと肩を叩かれる。
「終わったぞ」
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