氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
私は会議室に案内した。
真鍋先輩も同席する。

「沢渡先生、お久しぶりです」

「真鍋刑事」

「相変わらず涼しそうですね」

「室温は適正です」

「そういう返し、嫌いじゃないです」

真鍋先輩が笑う。
沢渡先生は笑わない。

私は二人の間に資料を置いた。

「白峰メディカルケアの概要です。院長は白峰遥人、四十五歳。内科医。在宅医療を中心にしていて、訪問看護ステーションも併設しています」

「規模は」

「医師二名、看護師六名、事務三名。提携薬局あり」

「被害者三人の担当者は」

「今のところ、一件目と三件目の往診担当医は白峰院長。二件目の訪問看護担当は別の看護師ですが、カルテ管理は同じシステムです」

沢渡先生は資料をめくる。
その速度が速い。
けれど、雑ではない。
紙の端を揃えながら、必要な箇所だけを正確に拾っていく。

「三件目の薬剤リスト」

「ここです」

「睡眠導入剤の記載があるが、処方元が空欄だ」

「家族は、市販薬か以前の残薬だと思うと言っていました」

「思う、では足りない」

「確認します」

「一件目の血圧薬、用量変更が死亡二週間前」

「白峰メディカルケアの健康相談後に、かかりつけ医へ連絡が入っています」

「誰が連絡した」

「記録上は事務員です」

「医療判断を事務員が?」

「実際は医師の指示かもしれません」

「かもしれない、は捨てろ」

私は奥歯を噛んだ。

苛立つ。
けれど、正しい。

沢渡先生は二件目の資料に移る。

「二件目は独居。薬の管理は誰が」

「訪問介護員と、訪問看護師です」

「飲み忘れは」

「ありました」

「死亡前日は」

「記録上、服薬確認済みです」

「誰の確認だ」

「白峰メディカルケアの訪問看護師、橘美里」

沢渡先生の指が、そこで止まった。

「一件目と三件目に、この名前は?」

「直接の担当ではありません。ただ、三件目の往診記録に同席者として一度名前があります」

「一件目は」

「健康相談の電話記録に、折り返し対応者として橘看護師の名前が」

真鍋先輩が低く呟く。

「橘美里、か」

沢渡先生は顔を上げた。

「この人間を犯人扱いするな」

「まだしてません」

真鍋先輩が両手を上げる。

「ただ、話を聞く優先順位は上がりましたね」

「上がる。それだけだ」

沢渡先生は資料を閉じた。
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