氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
「今井刑事」
先生の声がした。
「はい」
「採血が終わったか」
私は処置台の方を見る。
「はい。担当医が検体を確保しています。尿検査も準備しています」
「救急搬送時の所見」
「看護師経由で聞いた奥さんからの話では、朝、起こしに行ったら呼びかけに反応が鈍く、呼吸が浅かった。眠っているようだった、と」
眠っているようだった。
その言葉が、処置室の空気の中で冷たく浮いた。
三人の変死と同じ。
第一発見者たちが口をそろえた言葉。
「先生」
「聞こえている」
沢渡先生の声は、まだ苦しそうだった。
でも、崩れてはいない。
「救急医に、搬送前のバイタルと投与薬を確認しろ。救急隊の記録も。白峰メディカルケアの訪問予定時刻も押さえる」
「わかりました」
「それから、藤堂の妻には今、追及するな。不安定な状態の家族の記憶は、証言として不十分だ」
「はい」
「今井」
一瞬、時間が止まった。
今井刑事、ではなかった。
今井。
自然に、あまりにも自然に呼ばれたから、最初は聞き間違いかと思った。
先生自身も、気づいたのか気づかなかったのか、眉をわずかに寄せた。
でも訂正しなかった。
「動く前に、俺に確認しろ」
「……はい」
返事が、少し遅れた。
先生はそれ以上何も言わなかった。
呼吸を整えるように、浅く息を吸って、吐いた。
私はその音を聞いていた。
処置室の喧騒の中で、先生の呼吸だけがやけに近かった。
先生の声がした。
「はい」
「採血が終わったか」
私は処置台の方を見る。
「はい。担当医が検体を確保しています。尿検査も準備しています」
「救急搬送時の所見」
「看護師経由で聞いた奥さんからの話では、朝、起こしに行ったら呼びかけに反応が鈍く、呼吸が浅かった。眠っているようだった、と」
眠っているようだった。
その言葉が、処置室の空気の中で冷たく浮いた。
三人の変死と同じ。
第一発見者たちが口をそろえた言葉。
「先生」
「聞こえている」
沢渡先生の声は、まだ苦しそうだった。
でも、崩れてはいない。
「救急医に、搬送前のバイタルと投与薬を確認しろ。救急隊の記録も。白峰メディカルケアの訪問予定時刻も押さえる」
「わかりました」
「それから、藤堂の妻には今、追及するな。不安定な状態の家族の記憶は、証言として不十分だ」
「はい」
「今井」
一瞬、時間が止まった。
今井刑事、ではなかった。
今井。
自然に、あまりにも自然に呼ばれたから、最初は聞き間違いかと思った。
先生自身も、気づいたのか気づかなかったのか、眉をわずかに寄せた。
でも訂正しなかった。
「動く前に、俺に確認しろ」
「……はい」
返事が、少し遅れた。
先生はそれ以上何も言わなかった。
呼吸を整えるように、浅く息を吸って、吐いた。
私はその音を聞いていた。
処置室の喧騒の中で、先生の呼吸だけがやけに近かった。