氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
クリニックの外へ出た瞬間、先生は足を止めた。

曇り空の下、住宅街の道はしんと静かだった。

「腕を見せろ」

「大丈夫です」

「見せろ」

命令だった。

私は仕方なく、シャツの袖を少し上げた。

掴まれた部分が少し赤くなっていた。

血は出ていない。

それでも、先生の目がわずかに険しくなる。

「打撲だな」

「軽いです」

「軽いかどうかは、君が決めるな」

「先生が決めるんですか」

「少なくとも、今の君よりは正確に見る」

「これくらい平気です」

言った瞬間、先生の顔がはっきり変わった。

怒っている。

そうわかるほど、目が冷たくなった。

「君はいつも、自分の身体を計算に入れていない」

胸がどきりとした。

「刑事ですから」

私も反射で言い返す。

先生は一歩近づいた。

「刑事でも、生きている人間だ」

私の擦り傷にもならない赤みに、怒っている。

「……先生」

「なんだ」

「私のこと、そんなに危なっかしいですか」

「かなり」

即答だった。

少し傷つく。

でも、なぜか嫌ではなかった。

「それは、捜査上の意味で?」

聞いた瞬間、自分でも何を言っているのかわからなくなった。

先生も少し黙った。

風が吹く。

白峰メディカルケアの看板が、かすかに軋んだ。

「……合理的な心配だ」

先生はそう言った。

自分に言い聞かせるみたいに。

私は返事をしなかった。

合理的。

便利な言葉だと思った。

先生は何でもそこに収めようとする。

怖さも。
優しさも。
心配も。

全部、合理的という氷の箱に入れて、蓋をする。

でも、今の手は温かかった。

私はそれを知ってしまった。
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