氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
午後、私たちは二件目の被害者、小沢千代さんの娘さんに会いに行った。

場所は警察署ではなく、娘さんの自宅近くの喫茶店だった。

小沢さんは独居だった。
訪問介護と訪問看護を受けながら、住み慣れた家で暮らしていた。

娘さんは、赤くなった目で何度もハンカチを握り直していた。

「母は、迷惑をかけたくない人でした」

その声は細かった。

「薬も、ちゃんと飲んでいるって言っていました。白峰さんの看護師さんが来てくれるから安心だって」

私はメモを取る手を止めないようにした。

でも、胸の奥が重くなる。

「亡くなる前に、何か変わった様子はありましたか」

「眠いって、よく言っていました。年だからかなって……私も、そう思ってしまって」

娘さんの目から涙が落ちた。

「もっとちゃんと聞けばよかった。母が『最近、薬が変な気がする』って言ったときに、年寄りの勘違いだなんて思わなければよかった」

私は息を詰めた。

「薬が変な気がする、と?」

「はい。でも母は、誰かを悪く言う人じゃなかったから。『白峰さんにはお世話になってるから』って、それ以上は」

涙が、テーブルに落ちる。

私は胸が熱くなった。

悔しい。
悔しくて、喉が詰まる。

亡くなった人は、もう話せない。

でも、死者の周りに残された人たちは、こんなふうに自分を責め続ける。

「必ず、真相を明らかにします」

口から出ていた。

沢渡先生が隣で、わずかに動いた。

止めようとしたのかもしれない。

でも、娘さんはその言葉に縋るように顔を上げた。

「お願いします。母がただ眠って死んだんじゃないなら……ちゃんと知りたいんです」

私は頷いた。

「はい」
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