氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
警察署に着くと、捜査一課のフロアは相変わらず騒がしかった。

電話の音、キーボードを叩く音、誰かが資料を読み上げる声。監察医務院とは違う雑然とした空気だ。

俺が入ると、何人かがこちらを見た。

「沢渡先生、お疲れさまです」

「お疲れ」

必要最低限の挨拶を返す。

今井の姿を探したわけではない。

資料室の位置を確認するため、視線を動かしただけだ。

だが、彼女はすぐに見つかった。

フロアの奥、資料室の前。紺色のジャケットの肩が少し濡れている。髪の先にも雨の跡が残っていた。額にかかった細い髪を、彼女は気づかずそのままにしている。

疲れている。

目の下に薄い影がある。夏目由香への聞き取りで、相手の感情をかなり受け止めたのだろう。資料を持つ指に力が入りすぎている。親指の爪が紙の端を押して、白くなっていた。

観察だ。

疲労状態の把握は、同行者の行動予測に必要だ。

「沢渡先生」

今井がこちらに気づいた。

「来てくださってありがとうございます」

「礼は不要だ。情報共有のために来た」

「はい。資料室、空いてます」

「真鍋刑事は」

「班長に報告中です。すぐ来ます」

俺は頷き、資料室に入った。
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