氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
「橘さん」

私はできるだけ声を柔らかくした。

「あなたが見たこと、気づいたことは重要です。ただ、今の段階では決定的な証拠にはなりません。だからこそ、もう少し確認させてください」

橘さんは頷いた。

「はい」

「神崎さんが使っていた管理者アカウントの操作履歴、どこまで残っていますか」

「通常画面では、最終更新者しか見えません。でも、システム会社の管理ログなら、IPや端末番号まで残っているはずです」

沢渡先生がすぐに言う。

「それは令状または正式照会が必要だな」

「はい。任意提出だけでは、神崎さんが拒むと思います」

「神崎がシステム担当なら、ログを消す可能性は」

「あります。ただ、外部サーバー側のログはすぐには消せないはずです」

私はメモを取りながら、頭の中で班長に報告する項目を整理した。

システム会社への照会。
白峰メディカルケアの薬剤配送記録。
神崎さんの外出記録。
夏目莉子さんのスマホ内写真。
藤堂さんの封筒。

事件は進んでいる。

なのに、私の意識の片隅にはずっと、隣にいる沢渡先生の気配があった。

私が前のめりになりかけると、ペンの音で止める。
資料の端に指を置いて、こちらの焦りを整える。
私の代わりに、静かな声で質問を続ける。

以前の先生なら、ただ冷たく切り捨てていたかもしれない。
でも今は、隣で呼吸を合わせてくれている。

そのことに気づいた瞬間、胸の奥がじんわり温かくなった。
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