氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
「それで、先生は何を確認したいんですか」

『三件すべてについて、死亡前七十二時間の接触者、服薬状況、訪問医療、介護、救急搬送歴。特に、医療関係者との接点を洗い直せ』

「医療関係者?」

『薬物を考えるなら、入手経路と投与機会を見る必要がある。だが、今の段階で毒物だと決めるな。鑑定が出るまでは可能性の一つだ』

「わかっています」

『本当に?』

「疑うの早くないですか」

『君は勢いで動くタイプに見える』

図星だった。
腹が立つ。
しかも、腹が立つほど正確だ。

「先生は、人の性格まで検案するんですか」

『必要なら』

「私は遺体じゃありません」

『生きている人間の方が厄介だ』

その言葉に、胸が少しだけ引っかかった。

生きている人間。
血。
沢渡先生の乱れた呼吸。

私は周囲を見回した。
廊下には誰もいない。
それでも、声を少し落とす。

「……先生」

『なんだ』

「さっきのことは、誰にも言っていません」

電話の向こうで、短い沈黙が落ちた。

『聞いていない』

「でも、気にしてるでしょう」

『気にする必要があるからな』

その返事は冷静だった。
冷静すぎて、かえって痛かった。

「言いません。約束しましたから」

『約束ではなく、取引だ』

言葉が返ってきた瞬間、私は息を止めた。

取引。
その通りだ。
否定できない。

『君は俺の秘密を材料に協力を引き出した。俺はその条件を呑んだ。それだけだ』

「……はい」

『感傷はいらない』

「私は、傷つけたいわけじゃありません」

言ってから、しまったと思った。
それは言い訳だ。
沢渡先生に向けているようで、本当は自分に向けている。

電話の向こうの沈黙は、今度は少し長かった。

『君の意図は問題ではない』

沢渡先生は静かに言った。

『問題は、結果だ』

その言葉は、まっすぐ胸に沈んだ。
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