氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
「……資料、洗い直します」

『三件目の服薬リストに抜けがある。病院の処方だけではなく、在宅で管理されていた薬も確認しろ』

「在宅……」

『三件とも、直近で外来通院以外の医療サービスを受けている可能性がある。記録が散っている。警察側で集約しろ』

「了解しました」

『それと』

沢渡先生の声が、少しだけ間を置いた。

『傷は』

私は聞き返しそうになった。

「傷?」

『指だ』

思わず、自分の指先を見た。
紙で切った小さな傷。
もう血は止まって、薄い赤い線が残っているだけだった。

電話越しなのに、あの一滴を覚えている。
というより、忘れられないのかもしれない。

「もう平気です」

『ならいい』

それだけ。
本当に、それだけだった。

なのに、私はしばらく返事ができなかった。

冷たい人なのに。
人の心を容赦なく切るようなことを言うのに。
そういうところだけ、妙に覚えている。

調子が狂う。

『今井刑事』

「はい」

『事実だけを持ってこい。君の熱意で死因は変わらない』

「……先生の嫌味でも変わりません」

『なら、お互い余計なものを削れるな』

電話が切れた。

私はスマートフォンを見つめたまま、長く息を吐いた。
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