氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
通話を切ると、先生はスマートフォンをしまった。

「真鍋刑事が周辺に人を置く。俺たちは先に橘の状態と現場の状況を確認する」

「はい」

「ただし、倉庫内で神崎を見つけても、君は飛び出すな」

「わかっています」

「本当に?」

「本当に」

「返事が早い」

「先生が疑うのも早いです」

私がそう言うと、先生は一瞬だけ黙った。

それから、わずかに息を吐く。

「疑うのは仕事だ」

「心配するのは?」

口にした瞬間、自分でも驚いた。

先生の足が止まる。

夜の道路で、私たちは向かい合った。

少し離れた場所でタクシーのライトが流れていく。濡れた路面が光を跳ね返し、その一瞬だけ先生の横顔が白く浮かんだ。

「……合理的な範囲内だ」

先生はそう答えた。

いつもの言い訳。
でも、少しだけ遅れた答え。

私は、笑わなかった。
ただ、頷いた。

「はい。じゃあ、合理的に一緒に行きましょう」

先生は眉を寄せた。

「君はすぐ茶化す」

「茶化さないと、緊張で走り出しそうなので」

「正直すぎる」

「先生には見抜かれるので」

そう言うと、先生は何も返さなかった。

けれど、私が歩き出すまで待ってくれた。
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