氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
白峰メディカルケアの旧倉庫は、表通りから二本入った細い道の先にあった。
診療所の清潔な白い外壁とは対照的に、倉庫は古びていた。低い鉄骨造りで、外壁の塗装はところどころ剥がれ、雨水を吸ったコンクリートの匂いが漂っている。正面には小さなシャッターと、横に人ひとりが通れる扉。扉の上には、防犯灯が青白く光っていた。
周囲に人通りはない。
近くの住宅の窓明かりが、遠くにいくつか見えるだけだった。
密室。
その言葉が頭に浮かぶ。
ここなら、封筒も、薬剤記録も、配送バッグも、古い端末も、すべて隠せる。
人目を避けて誰かを呼び出すにも、都合がいい。
だからこそ、嫌な感じがした。
私は足を止めた。
「先生」
「なんだ」
「橘さんが本当に怯えているなら、ここに一人でいるのは危険です」
「そうだな」
「なんだか都合よく呼び出された気がします」
自分の口からその言葉が出たことに、少し驚く。
沢渡先生も私を見た。
「今井」
「はい」
「今の判断は悪くない」
胸が、熱くなった。
ほんの短い一言。
褒め言葉というには、相変わらず素っ気ない。
でも、先生が私の変化を見てくれた。
走り出す前に、立ち止まったことを。
守りたいと思う相手の言葉を、そのまま信じ込まなかったことを。
「ありがとうございます」
「礼は不要だ。気を抜くな」
「はい」
診療所の清潔な白い外壁とは対照的に、倉庫は古びていた。低い鉄骨造りで、外壁の塗装はところどころ剥がれ、雨水を吸ったコンクリートの匂いが漂っている。正面には小さなシャッターと、横に人ひとりが通れる扉。扉の上には、防犯灯が青白く光っていた。
周囲に人通りはない。
近くの住宅の窓明かりが、遠くにいくつか見えるだけだった。
密室。
その言葉が頭に浮かぶ。
ここなら、封筒も、薬剤記録も、配送バッグも、古い端末も、すべて隠せる。
人目を避けて誰かを呼び出すにも、都合がいい。
だからこそ、嫌な感じがした。
私は足を止めた。
「先生」
「なんだ」
「橘さんが本当に怯えているなら、ここに一人でいるのは危険です」
「そうだな」
「なんだか都合よく呼び出された気がします」
自分の口からその言葉が出たことに、少し驚く。
沢渡先生も私を見た。
「今井」
「はい」
「今の判断は悪くない」
胸が、熱くなった。
ほんの短い一言。
褒め言葉というには、相変わらず素っ気ない。
でも、先生が私の変化を見てくれた。
走り出す前に、立ち止まったことを。
守りたいと思う相手の言葉を、そのまま信じ込まなかったことを。
「ありがとうございます」
「礼は不要だ。気を抜くな」
「はい」