氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
「今井、俺を見るな」

「見ます」

「指示に従え」

「嫌です」

先生の眉が震えた。

「今井」

「先生が逃げないなら、私も目を逸らしません」

言いながら、喉が熱くなった。

私は先生を治したいわけじゃない。
怖くなくしてあげたいわけじゃない。
ただ、怖いままでも隣にいたいと思った。

そして今、先生は怖いまま、私のそばにいる。

「……本当に、君は」

先生は息を吐いた。

「手がかかる」

「すみません」

「謝るな。意識を保て」

「はい」

「俺の声を聞け」

「聞いてます」

「痛みで気分が悪いか」

「少し。でも、先生の顔の方が悪いです」

「余計な観察をするな」

「先生にだけは言われたくありません」

倉庫の入口で、橘さんが確保される声がした。

「橘美里、任意同行に応じてもらう!」

「離して! 私は悪くない、私はただ――」

「端末と封筒を確保!」

真鍋先輩の声が近づいてくる。

「今井!」

私は振り向こうとしたけれど、沢渡先生の声がそれを止めた。

「動くな」

「はい」

真鍋先輩がすぐそばに来て、私の腕と先生の顔を見比べた。

一瞬だけ、からかいの色が完全に消える。

「救急は呼んだ。あと五分程度。今井、意識は?」

「あります。先生がうるさいので」

「それだけ口が回れば大丈夫そうだな」

真鍋先輩はほっと息を吐いた。

けれど、先生の手元を見て、少しだけ目を細める。

沢渡先生の手は、まだ震えていた。

でも、離れなかった。

真鍋先輩は何も言わなかった。
ただ、いつもより静かな声で言った。

「沢渡先生、そのまま圧迫お願いします。救急隊が来るまで」

「わかっている」

先生の返事は短い。
でも、声の奥は荒れていた。
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