氷の法医学者と、秘密の共犯になりました
救急隊が到着し、私は倉庫から運び出された。

傷は、思っていた通り浅かった。
ただ、出血が見える程度には続いていて、救急隊員が手早く処置を引き継いだ。

沢渡先生は、その瞬間ようやく手を離した。

けれど、離した手は宙で迷うように動き、すぐに握り込まれた。

先生の指先には、布越しに触れた血の気配が残っている。
それを見ないように、先生は視線を横へ逸らした。

顔色はまだ悪い。
ひどく疲れて見えた。

「先生」

私は救急車へ乗る前に呼んだ。

先生が顔を上げる。

「ありがとうございました」

「礼を言うな」

「でも」

「君が怪我をした事実は、礼で帳消しにならない」

いつもの冷たい言い方。
でも、声がかすれている。

「……すみません」

「謝るな」

「難しいですね」

「君が難しくしている」

先生はそう言って、救急隊員へ私の状態を簡潔に説明し始めた。
< 86 / 103 >

この作品をシェア

pagetop