私、王子様に独占されたい。
第一話 恋の始まり 日和side
「では、開いてくださーい」

教室に先生の声が響く。
手の中の紙が、少しだけ震えた。

……緊張するな。

せーの。

パカッ。

㊴。

び、ビミョー。
まあ、いっか。

あ、そうだ。自己紹介しなきゃ。

私は清水日和。
華恋学園1年A組。
目立たないし、特技もない、ごく普通の陰キャ。

「ねー日和! 最高なんだけど!」

突然、隣から元気な声が飛んできた。

橘 菜都。
同じく1年A組で、私の親友。
明るくて、誰とでもすぐ仲良くなれる、The・陽キャ。

「席自体は最悪だけど……」

そう言いながら、①と書かれた紙を見せてくる。

「優陽と隣の席なの!」
「えー!! よかったね!」

陽キャの菜都に比べて、私は真逆。
釣り合わないなって思うこともあるけど、それでも大切な親友だ。

―――席移動―――

机を引く音が教室に広がる。

さあ、新しい生活の始まりだ。

……チラッ。

え……。

なんで……。

私の……。

後ろ……。

月岡君なのーーーーーーー!?

思わず心の中で叫んだ。

月岡君は、クラスの中心にいる存在。
明るくて、人気者で、スポーツもできて。
私とは住む世界がまるで違う。

「よろしくねっ!」

そう言って笑った月岡君に、心臓が大きく跳ねた。

……かっこいい。

でも、私なんかが月岡君と釣り合うわけない。
だから、遠くから見てるだけでいい。
拝めるだけの存在。

……なのに。

最近、ほかの女子が月岡君と話しているのを見ると、胸の奥がズキッと痛む。
理由なんて、分からない。

「では、周りの人と自己紹介してくださーい」

ざわ、ざわ、ざわ……。

話さなきゃ。
でも、無理。
だ、だめだよ私。
月岡君と話せないよ……!?

ざわざわと教室が一気にうるさくなる。
みんな楽しそうに話しているのに、私だけ時間が止まったみたいだった。

……どうしよう。
話さなきゃいけないのに。

「えっと……」

声を出そうとした瞬間、後ろから少し低めの声が聞こえた。

「清水さん、だよね?」

びくっ。

心臓が跳ね上がる。

「う、うん……」

ちゃんと返事できたかな。
顔、赤くなってない……?

「俺、月岡 蓮。よろしく」

さっきよりも少しだけ、優しい声。
それだけで胸が苦しくなる。

「よ、よろしくお願いします……」

小さな声だったけど、ちゃんと聞こえただろうか。

一瞬、沈黙。

……気まずい。

でも、月岡君は気にした様子もなく、ふっと笑った。

「緊張してる?」

「……ちょっとだけ」

正直に言うと、月岡君は「そっか」と笑ってくれた。

「俺も、最初こういうの苦手なんだ」

……え?

人気者で、誰とでも話せそうな月岡君が?

意外すぎて、思わず顔を上げてしまった。

「意外、って顔してる」

「す、すみません……」

「はは。よく言われる」

そう言って、照れたみたいに頭をかく。

……なにそれ。
ずるい。

「清水さんは、どんな人?」

「えっ……!?」

いきなりの質問に、頭が真っ白になる。

どんな人って……。
陰キャで、目立たなくて……。

「えっと……静かなの、好きです……」

言い終わる前に、恥ずかしくなった。

「いいじゃん」

月岡君は即答した。

「静かな人、俺好きだよ」

……え?

一気に心臓の音が大きくなる。

「……あ、友達として、ね」

慌てて付け足す月岡君。

……分かってる。
分かってる、けど。

それでも胸がドキドキして止まらない。

この時、私はまだ知らなかった。
この何気ない一言が、私の高校生活を大きく変えることを。
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