麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
風は少し涼しくなり、肌寒さすら感じる。
護衛の女性が、サッとストールを出してくれた。
夏の涼しい時間帯にちょうどいい、レース編みの生地を重ね厚みをもたせたもので、冷えやすい肩やお腹周りがあたたかくなる。
「そろそろ帰ろうか、ローネル」
「.......ねぇ、モモネリア。私、もうひとつ行きたいところがあるんだ」
モモネリアの肩に乗っていたローネルは、ふわっと浮いて彼女の目線の高さでとまった。
「え?」
「一緒に行ってくれる?」
そして、彼女の目をじっと見つめ、尋ねる。
「........えぇ。もちろん」
その真剣な眼差しを受けて、拒否などできない。
リードネストが仕事から帰ったときに、モモネリアがいないと心配するだろう。
だが、まだ彼が帰るまでには少し余裕があるはずだ。
あと一つくらい寄り道しても......きっと大丈夫。
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キィーー。
「.......着いたよ」
「.......教会?」
ローネルに連れられて行った先は、街の通りからすぐの裏路地を抜けたところにあった古い教会。
見たところ、ずっと前に建てられた建物のようで、築何百年と経っていそうな雰囲気すらあるが、建物の造りがしっかりしていたのだろう。
まだまだ、その姿を残していた。
外観は、汚れや劣化が目立つ。
屋根の上には何やら取り付けられていたものが、崩れ落ちた痕跡があるので、十字架が、設置されていたのかもしれない。
蜘蛛の巣が張ったドアノブを、ローネルが小さな口で「ふぅー」と息をふきかけ払ってから、開ける。
金属の錆びた音が響いたが、教会の中はそれほど劣化はひどくない。