麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
周りの空気が、一瞬で変わった。
突然張り詰めた空気に、嫌な汗が背中を伝う。
ローネルの声は、先ほどまでの優しい声音ではなくなった。
決して大きくないのに、低く、低く、けれどはっきりと耳に響いて、身体が自然と凍りつく。
反射的に、右足を下げ、左足を下げ.....二歩、三歩と後ずさっていた。
モモネリアの顔の目の前にいたローネルと、少しだけ距離があく。
「........何故、逃げるの?......帰ろう、カレン。.......僕たちの家に」
狂気にも似た雰囲気を纏いながら、ローネルは右手を差し出し、ゆっくりと、ふわりふわりとモモネリアに近づいた。
「........い、家?......何のこと?......きゃっ!」
ドサッ!
どんどん詰まる距離を何とか保とうと、モモネリアは更に後ずさる。
けれど、数歩下がったところで倒れていた彼女の護衛の足先に踵をひっかけ、尻餅をついてしまった。
もう目の前まで、ローネルが迫ってきている。
モモネリアは、震えながら首を横に振る。
ローネルがぴたりと動きを止めた。
「.....君と暮らす家に決まっているだろう。君と.....将来生まれる僕たちの子供に、何不自由なく暮らしてもらえるように整えたんだ。....本当はもっと早く迎えに行くつもりだったんだけれど.....君は何故か別の国に生まれていて、見つけるのに時間がかかってしまった」