麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜



 モモネリアは尻餅をついたまま小刻みに震え、顔は青くなっている。



 僕たちの家だとか、将来生まれる子供だとか......この人は一体何を言っているのだろう。



 モモネリアには、前世の記憶がないのだ。



 心と身体が懐かしさを感じているのは認めるが、本当にそれだけで......生まれ変わった『今の』モモネリアにとっては、前世でしたという約束も現実味なんてない。




 ただ絵本の中の物語を聞いているような感覚だ。




 それを、さも当然みたいに連れ帰ろうとするローネルをただただ、恐ろしく感じる。





 こわい。このままここにいたら......連れて行かれる。



 頭の中で警鐘が鳴っても、身体は恐怖ですくみ震える腕や足には力など入らない。




「.......や、ふぅ......え」



 うまく言葉が出てこない。




 これ以上、近づかないで。





 そう思った瞬間ーー。

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