麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
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 暗いグレーのガウンをはおり、玄関に向かうと、そこにはーーー。



「.....い、いぬ?」



 そこには、ふさふさの黒い毛を揺らしながら、尻尾を振る小さな犬。


 リードネストを見据えて、行儀良くお座りしている。

 はっはっ、と荒い息が聞こえるが、興奮しているのだろうか。



 犬を凝視していると、カーヴィンが申し訳なさそうに答えた。





「........はい。........実は.....その、あの犬が、いつの間にやら、邸の敷地内に入っていたそうで。ハルカたちが、なんとか外に出そうと手を尽くしてみたのですが、全く動かず。無理やり摘み出せば良いのですが、どうもこちらの言葉を理解している素振りがあって、気になったものですから」


「........言葉を理解?......そんなこと、あるわけがないだろう。犬、だぞ?」


「.......そのはずなのですが.......」


 カーヴィンが、そう言い淀んだところで、犬が一声吠えた。

 見た目よりも低い声で、「わん!」と。


「......まぁ、いい。ちょっと見てみよう」


 何はともあれ、近づいてよく観察してみよう、と階段を降りて玄関に立てば、ますます犬は尻尾をぶんぶん振りながら鼻息を荒くする。


 そこで、はた、とリードネストは気づいた。



「.....おい......この瞳......」



 犬の瞳の色は、琥珀色をしている。



 この色。どこかで見たことがある.....どこだったか。


 しばしその姿を見つめて、必死に記憶を辿る。



 止まっていた歩みをすすめ、さらに数歩近づいたところで、よく知る香りが鼻を掠めた。





 これは......?




 その瞬間、リードネストは雷に打たれるほどの衝撃に襲われる。


 
「........ローネル!?」




 その声に、犬はますます嬉しいとばかりに、尻尾を振り回し、飛びかかってきた。



 そしてーーー。

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