麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
8. 秘密の花畑と巡り合い
「リード.......そろそろ下ろして」
モモネリアは、リードネストを軽く睨んだ。
「どうして?モモネリアの席はここだろ?」
ニコニコと嬉しそうなリードネストが、当たり前のように指差したのは今、モモネリアが座っている場所。
彼の膝の上だ。
もう最近はここがモモネリアの定位置で、運良く隣り合わせに座れても限りなく距離はゼロに近い。
つまり、超至近距離だ。
「.........はぁ」
このやりとりも、何度したかわからない。
モモネリアはわずかに抵抗してみたが、やはり無理そうなので、早々に諦めてため息を吐く。
そっとリードネストの膝の上から、馬車の小さな窓を見遣れば、見慣れない景色が広がっている。
リードネストの邸は都心に近い場所だったので、外に出て少し歩けば、様々なお店が立ち並び、たくさんの人で賑わっていた。
その風景とは、全く異なる田舎道。
太陽を受けて輝く木々たちが、どんどん走り去っていく。
違う色彩の花々が蕾をつけ、大小に開いた花びらを心地よさげにふるわせて、馬車の中からでも気持ちいい風が吹き抜けていることがわかる。
今、モモネリアはリードネストの仕事に同行し、外国に来ている。
と言っても、リードネストが出張に出る際に「モモネリアと離れたくないから行かない」と駄々を捏ね譲らなかったため、急遽モモネリアもついていくことになったのだ。
リードネストは合間で仕事をこなし、自由な時間はモモネリアと旅行のつもりで楽しむことにしたらしく、モモネリアも実は少し浮かれていた。
リードネストとの初めての旅行であり、彼の仕事のついでとは言え、広い世界を知れるのはモモネリアも大歓迎だったからだ。
目的地はトーリェンシア国の隣、ナターシェリア国の中心地をやや過ぎたあたりだとリードネストは言っていた。
ナターシェリア国は桃の原産地で、気候が比較的安定しているのが特徴だ。
あたたかな春、暑さが際立つ夏、木々が紅く染まる秋、雪が舞う冬、と『四季』と呼ばれる季節があるらしい。
ナターシェリア国では現在、夏も本番に向かい、気温はトーリェンシア国に比べると高めだ。
事前に聞いていたので、なるべく涼しい素材のドレスを選んで荷物に詰めてきた。
獣人が多いトーリェンシア国とは違い、ナターシェリア国は、主に魔法使いとドワーフの二種族が暮らす。
それぞれが力を発揮し協力体制ができているため、科学や武力とは違う、我々が見れば魔法としか思えない文明が発達している。
ナターシェリア国の者たちに言わせると、それは厳密には魔法とは異なるらしい。
魔法使いが自身の力のみを使い、物を浮かせたり、水や光を操ったり。
電気や科学の力を借りず、直接手を触れず起こす様々な現象のことを魔法。
魔法使いとドワーフの二種族が協力して発展させてきたものは、魔法のように見えて魔法ではない。
それはこの国特有の『文明』らしく、魔法使いやドワーフでなくとも、魔法みたいな不思議な力を道具を通して使えるものだ。
人間も獣人も。
その道具があれば、この国で魔法使いやドワーフと同じ生活を送ることができる。
湯を沸かすことも、灯りをともすことも。
他国で電気や科学の力で行っていることを、ナターシェリア国では全てこの石の力で行っていた。
それは、魔法の力をこめることが可能な特別な石に、魔法使いが自身の凝縮させた魔力をうつすことで完成する。
そして、石は込められた魔力を何故か一定に保ち続けることができ、使われた魔力分が自動で補給される。
つまり、大量生産できないため貴重で高価なものだが、一つ持っていれば半永久的に使えるのだ。
石を掘り当てるのは、ドワーフ。
ドワーフは、昔から魔力とは異なる不思議な力を持ち、持つ力もドワーフ個々により違うらしい。
中でも、目的のものを探し当てる能力を持つ者は多く、石はその力を発揮して掘り当てる。
そして、それが魔法使いに渡り、魔力が込められた後、『魔妖石』と呼ばれ、ナターシェリア国内で販売されるのだ。
この国にきた人間や獣人は、まずこの石を購入する。
形や色は一つとして同じものはなく、新婚旅行でナターシェリア国に来た夫婦は、自身の瞳の色や髪の色と同じ石を贈り合い、のちに形はそのままに宝石としてアクセサリーに加工する者もいるそうだ。
モモネリアにとって、未知の領域だ。
リードネストは、この国に何度か訪れているようで、「すでに魔妖石は持っている」と本物を見せてくれた。
リードネストの石は、親指ほどの大きさの菱形をしており、透明度の高いエメラルドグリーン。
じっと眺めれば、吸い込まれてしまいそうなほど美しい色をしている。
思わず、息を呑んだ。
魔力が込められているとは、人間のモモネリアにはわからない。
しかし、その不思議な存在感は確かに石から感じ、ただの路傍の石ではないことはなんとなく察せられる。
そんな石だった。
.......私の瞳の色の石。嬉しい。
モモネリアは、リードネストの持つ石が自分と出会う前に購入した石だとわかっていても、偶然にも自分の色であったことを素直に喜んだ。
モモネリアは、リードネストを軽く睨んだ。
「どうして?モモネリアの席はここだろ?」
ニコニコと嬉しそうなリードネストが、当たり前のように指差したのは今、モモネリアが座っている場所。
彼の膝の上だ。
もう最近はここがモモネリアの定位置で、運良く隣り合わせに座れても限りなく距離はゼロに近い。
つまり、超至近距離だ。
「.........はぁ」
このやりとりも、何度したかわからない。
モモネリアはわずかに抵抗してみたが、やはり無理そうなので、早々に諦めてため息を吐く。
そっとリードネストの膝の上から、馬車の小さな窓を見遣れば、見慣れない景色が広がっている。
リードネストの邸は都心に近い場所だったので、外に出て少し歩けば、様々なお店が立ち並び、たくさんの人で賑わっていた。
その風景とは、全く異なる田舎道。
太陽を受けて輝く木々たちが、どんどん走り去っていく。
違う色彩の花々が蕾をつけ、大小に開いた花びらを心地よさげにふるわせて、馬車の中からでも気持ちいい風が吹き抜けていることがわかる。
今、モモネリアはリードネストの仕事に同行し、外国に来ている。
と言っても、リードネストが出張に出る際に「モモネリアと離れたくないから行かない」と駄々を捏ね譲らなかったため、急遽モモネリアもついていくことになったのだ。
リードネストは合間で仕事をこなし、自由な時間はモモネリアと旅行のつもりで楽しむことにしたらしく、モモネリアも実は少し浮かれていた。
リードネストとの初めての旅行であり、彼の仕事のついでとは言え、広い世界を知れるのはモモネリアも大歓迎だったからだ。
目的地はトーリェンシア国の隣、ナターシェリア国の中心地をやや過ぎたあたりだとリードネストは言っていた。
ナターシェリア国は桃の原産地で、気候が比較的安定しているのが特徴だ。
あたたかな春、暑さが際立つ夏、木々が紅く染まる秋、雪が舞う冬、と『四季』と呼ばれる季節があるらしい。
ナターシェリア国では現在、夏も本番に向かい、気温はトーリェンシア国に比べると高めだ。
事前に聞いていたので、なるべく涼しい素材のドレスを選んで荷物に詰めてきた。
獣人が多いトーリェンシア国とは違い、ナターシェリア国は、主に魔法使いとドワーフの二種族が暮らす。
それぞれが力を発揮し協力体制ができているため、科学や武力とは違う、我々が見れば魔法としか思えない文明が発達している。
ナターシェリア国の者たちに言わせると、それは厳密には魔法とは異なるらしい。
魔法使いが自身の力のみを使い、物を浮かせたり、水や光を操ったり。
電気や科学の力を借りず、直接手を触れず起こす様々な現象のことを魔法。
魔法使いとドワーフの二種族が協力して発展させてきたものは、魔法のように見えて魔法ではない。
それはこの国特有の『文明』らしく、魔法使いやドワーフでなくとも、魔法みたいな不思議な力を道具を通して使えるものだ。
人間も獣人も。
その道具があれば、この国で魔法使いやドワーフと同じ生活を送ることができる。
湯を沸かすことも、灯りをともすことも。
他国で電気や科学の力で行っていることを、ナターシェリア国では全てこの石の力で行っていた。
それは、魔法の力をこめることが可能な特別な石に、魔法使いが自身の凝縮させた魔力をうつすことで完成する。
そして、石は込められた魔力を何故か一定に保ち続けることができ、使われた魔力分が自動で補給される。
つまり、大量生産できないため貴重で高価なものだが、一つ持っていれば半永久的に使えるのだ。
石を掘り当てるのは、ドワーフ。
ドワーフは、昔から魔力とは異なる不思議な力を持ち、持つ力もドワーフ個々により違うらしい。
中でも、目的のものを探し当てる能力を持つ者は多く、石はその力を発揮して掘り当てる。
そして、それが魔法使いに渡り、魔力が込められた後、『魔妖石』と呼ばれ、ナターシェリア国内で販売されるのだ。
この国にきた人間や獣人は、まずこの石を購入する。
形や色は一つとして同じものはなく、新婚旅行でナターシェリア国に来た夫婦は、自身の瞳の色や髪の色と同じ石を贈り合い、のちに形はそのままに宝石としてアクセサリーに加工する者もいるそうだ。
モモネリアにとって、未知の領域だ。
リードネストは、この国に何度か訪れているようで、「すでに魔妖石は持っている」と本物を見せてくれた。
リードネストの石は、親指ほどの大きさの菱形をしており、透明度の高いエメラルドグリーン。
じっと眺めれば、吸い込まれてしまいそうなほど美しい色をしている。
思わず、息を呑んだ。
魔力が込められているとは、人間のモモネリアにはわからない。
しかし、その不思議な存在感は確かに石から感じ、ただの路傍の石ではないことはなんとなく察せられる。
そんな石だった。
.......私の瞳の色の石。嬉しい。
モモネリアは、リードネストの持つ石が自分と出会う前に購入した石だとわかっていても、偶然にも自分の色であったことを素直に喜んだ。