麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

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 回想していると、徐々に馬車のスピードが落ちてきた。



 リードネストは、変わらず膝の上に座るモモネリアの桃色の美しい髪を撫で梳いている。

 動きがゆるやかになった馬車は、自然豊かな砂利道を抜け大きく開けた場所に出た。

 馬がブルルと唸りながら、ゆっくり止まる。

 目的地までの道のりが長く、やっとトーリェンシア国とナターシェリア国の国境を超えたあたりにきた。

 馬車移動なので、馬を休ませるためにも適度に休憩をはさむ。

 無理のない工程を組み、ちょうど休憩するのにぴったりの場所に着いたようだった。


「モモネリア、少し休憩だ。外の空気を吸おう。おいで」

 馬車の扉が開き、モモネリアを膝から下ろしたリードネストが先に馬車をおりる。

 スッと差し出されたすっかり馴染んだ大きな手に自身の手を重ね、モモネリアも地面へ降り立った。


「.........わぁ!!」


 モモネリアの目の前に、辺り一面鮮やかな花畑が広がっていた。

 思わずリードネストの手を握る手に力が入る。


 澄んだ空、萌ゆる青い葉、しっとり咲き乱れる花。
 白、黄色、きみどり、薄桃色、水色、紫、橙色......。



 隙間なく染められた大地では、そこで芽吹いた命が全身で生きる喜びを表現していた。

 鼻をくすぐる甘い香りが漂い、頬を撫でる風が生温かい。

 モモネリアの目は、初めて見る花畑に釘付けだ。


「綺麗!リード、すごく綺麗ね!」



 頬を桃色に染めて、両手を合わせ興奮ぎみに飛び跳ね、前のめりになるモモネリア。

 リードネストは、モモネリアと繋ぐ手とは反対の手を口にあて、くすくす笑う。



「気に入ったみたいで良かった。可愛いモモネリアに見せてあげたかったんだ」



 モモネリアは少し冷静になり、自分が興奮しすぎたと気づいて恥ずかしくなってきたのだろう。

 カァっと更に頬を染め、リードネストから視線を外した。



「.......ありがとう。私、お花畑なんて見たの初めてよ」



 祖国にいた頃は、家事とお店のための買い出しや手伝いばかりで、自分のために使う時間もなかった。家族は、モモネリアを愛しているわけではなかったから、家族で出かけることもない。

 時折楽しげに出かけるのは、両親と姉のガーネットの三人だけで、モモネリアは留守番を言いつけられていた。

 当然、モモネリアにとって花畑なんてお話の世界の話で、こんなに幻想的な素晴らしい景色だと初めて知ったのである。

 それを聞いたリードネストは、一瞬眉間に皺を寄せ怒りを堪えるような、苦しげで切なげな顔をして、すぐに元の微笑みをたたえた。


 モモネリアは、リードネストにまだ家族の話はしていない。

 いつか話さなくてはならないと思いながら、家族にも家族と思われない自分を知られるのが恥ずかしくて、情けなくて、自分の孤独を思い知りそうで、決心がつかずにいる。

 ただ、モモネリアの発言や態度から何か察しているらしく、リードネストはモモネリアが少し何かを漏らすとそんな顔を見せるようになった。


 詳しくはわかっていないはずなのに、まるで過去に寄り添ってくれているみたいで、モモネリアはそれが嬉しかった。


「そうか。モモネリアが望むなら、もっと色々なものを見に行こう。お前と一緒にたくさんの場所に行くのが俺の夢だ。仕事柄、こういう外国にもよく来る。これからは、モモネリアも一緒に行こう。モモネリアと離れるのは俺が寂しくて耐えられないからな」



 そう言って頭を優しく撫でる。













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