麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
「........モモネリアの唇は、柔らかで甘いな。もっと味わいたくて、クセになる」
至近距離で視線がぶつかったリードネストが、低く響く声で言った。
「..........慣れてる」
モモネリアは唇を突き出して、拗ねた顔で視線を下げる。
「ん?」
「.......何だか、リード手慣れてるわ。........キス、したことあるの?」
ちらっとリードネストを見て、ボソボソと尋ねるモモネリアに、一瞬遅れて彼は笑い出す。
尻尾は、楽しげに弧を描いて揺れている。
「......モモネリアが初めてだ」
パッと勢いよく顔をあげて、信じられないという風に眉間に皺を寄せるモモネリア。
彼はニコニコ上機嫌に、愛しい姫を見つめている。
「......本当?」
「あぁ、本当。お前も知ってるだろ?俺は狼獣人だ。獣人でも、一夫多妻制の種族ももちろんいるが.......俺たち狼獣人は生涯番だけを愛する。番以外に、心が動かないんだ。だから、番と出会えなければ、生涯誰とも寄り添わず一人で死んでいく。俺だって、ずっと一人で生きていくんだろうと思っていた。モモネリアと出会うまでは。.......俺は、本当に幸運だ。俺にとってこの世でたった一人の存在に.......モモネリアに出会えたんだから。俺には、今までもこれからもお前だけだ。........信じてくれた?」
「.........うん。リード........ありがとう」
いつも愛してくれて。
たくさんの自信をくれて。
私がこの世に存在している意味を教えてくれて。
居場所をくれて。
家族のそばにいた時は、自分の存在は邪魔なんだとしか思えなかった。
本当の家族じゃないと知ったとき、生きる意味もわからなくなった。
そんな私に、リードが愛情を教えてくれる。
人の温かさを伝えてくれる。
生きることが、こんなに楽しいなんて。
リード.......あなたが求めてくれるなら、私はあなたのそばでずっと支えていきたいわーー。
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「あ.......リード。一つお願いがあるんだけど」
「何なりと。俺の可愛い桃ひめ」
「使用人たちは、通常通りに戻してあげて?.......きっと時間のやりくりに目を回しているんじゃないかしら。それに、私はリードを支えてくれている使用人たちみんなに挨拶したいわ。.....ダメ?」
「うっ.........」
首を傾げて、多少あざとくお願いすると、リードネストは時間をかけて悩んだ末に渋々了承してくれた。
そうして、モモネリアの知らないところで変化していた邸の姿が、やっと通常通りに戻り、男性使用人たちからは神様の如く崇められた。
暗黙の了解として、モモネリアに話しかけるのは女性の使用人のみ。
モモネリアから、使用人たちへ感謝を述べる際には、男性使用人も含めた「皆」にむけて感謝する。
特定の男性使用人と言葉や視線を交わすことは極力避ける。
これらを徹底して、リードネストに配慮することとなった。
時折、リードネストにとてつもなく怖い睨みをきかされ、震え上がる男性使用人がいるが、それはもう........心の中で何度も謝って........それから諦めている。
モモネリアはおそらく普通ではない距離の近さでぴったりくっついて付いて回る恋人に手を焼きながらも、その愛の重さに幸せを感じているのだーー。