麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
それから、三人で馬車に戻り乗り込んだ。
馬車の中では、ローネルとモモネリアの間にリードネストが腰掛けた。
リードネストはローネルに背を向け、反対側にいるモモネリアをベッタリと抱き込んで離さなかった。
モモネリアも嬉しそうに、抱きつくリードネストの三角耳や髪の毛を撫でている。
ポツンとひとりのローネルは終始口を尖らせ不満顔だった。
それもそのはず。
隣で二人の世界に浸るだけでなく、ローネルに背を向けるリードネストの尻尾がバタンバタンと大きく上下に振られているのだ。
おかげで、小さなローネルは何度もふさふさの尻尾の下敷きになり、「うぐぅ」と変な声まで出る始末だ。
これは、嫌がらせか?
ローネルは、なるべくリードネストの尻尾から離れようと身体を小さくして壁際まで移動したのだった。
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「な、な、なんで!?.......なんで、私は違う部屋なの~!?こんな広い部屋で一人だなんて、寂しすぎる!!」
半泣きの顔でリードネストに詰め寄るローネルは、今夜泊まる部屋に案内されていた。
馬車で今夜の宿までやって来たモモネリアたちは、まずは少し休もうということになった。
ローネルは、当然モモネリアと同じ部屋だと思っていたらしく、宿の主人にもう一部屋手配するよう頼むリードネストを不審に思ったらしい。
いざ部屋にあがると隣り合うニ部屋を、リードネストは彼とモモネリアの部屋、ローネルの部屋、として分けてしまった。
身体の小さなローネルに一部屋は確かに広すぎるし、「リードネストとモモネリアの部屋の一角にクッションでも置いてくれたらそこで寝る!」と言い張ってずっとモモネリアたちのそばで粘っていたのだが。
とうとう痺れを切らしたリードネストが、無理やりローネルの部屋まで連れてきたのだ。
「お前はこっちだ。........言っておくが、間違っても俺たちの部屋に入ってくるなよ。モモネリアの天使の寝顔をのぞいたら容赦しないぞ」
まだ諦めずに至近距離で抗議を続けるローネルに、リードネストは声をひそめて脅しをかける。
モモネリアは、二人の様子をのほほんと見守った。
それにしても、獣人とは同性相手でも嫉妬するものなのだろうか。
ローネルは、女の子だし大丈夫だろうと同行の許可を求めたが、リードネストは本心ではモヤモヤしていたのだ。
彼の態度から、察せてしまう。
確かに『喧嘩するほど仲がいい』と言うし、見ている限り気が合わないわけではないのだろう。
掛け合いが漫才のようだし、二人とも本気で嫌がっている雰囲気はない気がする。
でも、リードネストがローネルに嫉妬していることは明らかだ。
........私にとってローネルは可愛い友人のような感覚でも。
.........少し残念だけど、リードのことを考えて適度な距離を保って仲良くした方がよさそうね。
モモネリアは本音を言えば、友人という存在に憧れていた。
今まで友人を作る機会などなかったが、モモネリアも年頃の娘だ。
友人がいたら、一緒にしたいことはたくさんあった。
街へ一緒に出かけ、可愛いお店を見て回りたい。
夜同じ部屋で、ベッドに潜り込んだたくさんお喋りしたい。
好きな人の話、いわゆる『恋バナ』をしてみたい。
そんな若い娘らしい願望は、しっかりあるのだ。
だが、今のモモネリアにとって一番大切にしたい存在はリードネストだ。
リードネストが嫌がることは、したくない。
ましてや、私に激甘なリードネストに甘えて、自分の欲だけを優先することは絶対嫌である。
だから、ローネルと適度な距離感を保つことは、リードネストにとってもモモネリアにとっても大切だ。
なんだかんだとリードネストの嫉妬や独占欲むきだしの溺愛が、心地良いモモネリアは重荷になど思わない。
むしろ今まで孤独を感じてきた分、ベタベタに執着してくれるリードネストの愛情は、モモネリアの喜びであり御褒美なのだ。
モモネリアは、これからもどっぷりとドロドロ甘い愛に浸っていたい。
「じゃぁ、俺たちは部屋に戻る。夕食の時間に呼びに来るから」
「.......はぁい」
色々考え込んでいるうちに、二人の話に決着がついていたらしい。
まぁ、ローネルも倒れるほど疲れていたのだ。
一人きりの方が、気が休まるだろう。
そう納得して、モモネリアはリードネストに手を引かれるまま隣の部屋に戻った。
部屋の扉が閉まった後、広いベッドの真ん中でボフッとあぐらをかいて座ったローネルは誰にも聞こえない小声で呟く。
「.......今は一人で過ごすことにするよ。今は、ね」
窓から差し込む西日だけが照らす室内はオレンジ色に染まっている。
ローネルの綺麗な面立ちには影が落ち、薄気味悪ささえ感じられたーー。