麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
モモネリアは、困った。
好きになってほしい、と言われて好きになれるものではないし、人を攫っておいて愛しているだなんて、理解できない。
そんなものが愛なのか、ほとほと疑問に思ったからだ。
だが、モモネリアは人間で、リードネストは狼獣人だ。
獣人は、獣の本能を残している者が多く、人間とは姿かたちは似ていても、やはり違う人種なのだと何かの本で読んだ。
人間のモモネリアにとって、人を攫ってまで自分のものにするということが愛とは到底思えないが、人種が違えば、価値観や文化が違うのも理解できる。
獣人たちのあいだでは、見初めたら無理やり攫ってでも自分のものにするのは、ごく当たり前のことなのだろうか.....。
考えても埒が開かないが、ひとつ言えるのは、攫われてこわいと感じている自分がいることだ。
獣人の価値観や文化、さらに言えば本能がどうとかは置いておいて、自分は攫われて傷ついている。
そこは、譲れない気がした。
モモネリアは、それから何も答えられずに黙ってしまった。
リードネストは、悲しそうに耳を伏せ、尻尾を下げて、モモネリアを見つめている。
やがて、今日のところは諦めたのだろう。
力無く肩を落として、部屋を出て行こうとドアに向かう。
「....あとで、食事を持ってくる。モモネリア....愛している。お前が...例え俺を愛せなくても、俺はお前を...お前だけを愛している」
ひどく切なげに言われて、胸がぎゅっと掴まれる。
攫われたのはこちらなのに、なんだかモモネリアが悪いことをした気になってくるではないか。
....りんご、落としちゃったのかな。
....みんな心配してる?
....ううん、心配なんてしてないわね。りんごが食べられなくて、腹を立てているくらいかしら。
....今日は、ついてないわ。家族のあんな話を聞いてしまって。おまけに、攫われちゃうなんて。
....私、これからどうなるの?
モモネリアの白い頬を、涙が一筋流れる。
もう何も考えたくなくて、モモネリアは目を閉じた。
こんな状況なのに、疲れていたのだろう。
すぐに眠気が襲ってきて、モモネリアは夢の中に落ちていったーー。