麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
2.モモネリアの望むこと
「お父様、お母様!りんごが食べたいわ!私、どうしても、今りんごが食べたい!ね?いいでしょ?」
姉の甘えたような声が、聞こえる。
「あぁ、可愛いガーネット。りんごが食べたいんだね。すぐに買ってこさせよう」
「そうね、私たちの可愛いガーネットのお願いだもの。すぐ用意しなきゃね」
両親が愛おしげに、姉を甘やかす言葉が響く。
「あら、でもりんごはなかなか売っていないわ。買いに行かせるのはかわいそうかしら」
「そんなことまで心配してやるなんて、可愛いガーネットは心まで清らかなんだね。いいんだよ、どうせモモネリアなんてそれくらいしかできないんだから」
父が、意地悪い声でモモネリアの名前を口にする。
「そうよ。可愛いガーネットは、何も気にしなくていいのよ。あんな子、そのために育ててやってるんだから。家族のために、せいぜい働けばいいわ」
母も、父に同意している。
「....まぁ、そうね。あの子は、私たちとは血が繋がっていないものね。あんな子、そうでもなきゃ、育てるだけ損かもね」
姉は、その甘えた声で....衝撃的な事実を口にしている。
「そうよ。ふふふ」
母が笑って、それに続いて父と姉も笑い出す。
モモネリアが、ドアの外で聞いているとも知らず、リビングではそんな会話がなされていた。
モモネリアは、目の前が真っ暗になった。
*******
ふっと意識が覚醒して、現実に戻ってきた。
夢だったのか。
頭が痛い。嫌な夢をみたせいだ。
昨日、攫われる前、りんごを買いに行けと命令された時の出来事。
モモネリアは、父の友人夫婦がのこした娘。
その友人夫婦に他に家族はなく、唯一の娘であるモモネリアはまだ三歳だったことから、遺産目当てにモモネリアを引き取った。
りんごを買いに出る前に、震える声で事実を尋ねると、父は「なんだ、聞いていたのか」とこともなげに答えて、笑いながらそんなことを話した。
本当の父と母が遺してくれたものは、すでにこの家族にくいつくされてしまったらしく、何ものこっていないと言われた。
胸がえぐられたみたいに、痛い。苦しい。
家族だと信じていた。
頑張ればいつかきっと姉のように愛してくれる、その一心で尽くしてきた日々。
幼いながらに、愛されたいと、努力してきた。
けれど、そんなことは無意味だった。
はじめから、彼らにとってモモネリアは他人で、召使いで、どうでもいい存在だったのだから。
....私、あの家に戻りたいのかしら?
....確かに、家族は冷たかったが、十八年間育ってきた土地には愛着がある。よくおつかいに行くお店のおかみさんやおじさんは優しくしてくれた。
....でも、愛してくれる人はいなかったわ。
.... 愛しているのに攫ってくるのは理解できないし、傷ついたが、もうあの家に戻らなくていい、と思うと少しホッとしている自分もいる。
モモネリアは、一晩明けて落ち着いた頭で改めてこの状況を整理し、ひとつの結論を得た。
あの家でずっと暮らすのも、攫われてここで暮らすのも、そう変わらないかもしれない。
どうせ私は、ひとりぼっちなのだから。