静かなる、恋の包囲網
「俺は、子供の頃よく1人で留守番をしていた。母と2人暮らしだったから、母が仕事で遅くなる日はいつも1人だった」

近くに止めていた車の助手席に乗せられ、車が走り出したところで、雄平が口を開いた。
大企業の御曹司である雄平は、何不自由のない幼少期を過ごしたものと思っていたが、思いのほか寂しい思いをして育ったのだということに驚き、塔子は運転席の雄平を見つめた。

「寂しかったわけではない。ゲームもテレビも本も漫画も、何でも不自由なく与えてもらったし、長期で不在のときには祖母やシッターさんが泊まりに来てくれたからね。
けれど、小学校に上がってすぐの頃。母の帰りが遅くなった日に大雨が降って、住んでいたマンションが停電したんだ」
「それは…」

小学校上がりたての子供が、夜1人で真っ暗な中で過ごすのはどれほど心細かっただろうと塔子にも想像できた。
そして思い出した。雄平の「暗闇が苦手だ」という言葉。
そうか、そういうことかと、この時腑に落ちた。

「誰にでもトラウマや苦手なものはある。それを無理して克服する必要はない。今は俺がここにいるから安心しろ」
「…ありがとう」

唐突に始まった話はここにたどり着くのかと、やっと理解した。
普段あまり多くを語らず、優しい言葉を口にすることも少ない雄平の優しさを見たようで、塔子はとても嬉しかった。
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