静かなる、恋の包囲網
「それは、どういうことだ?」
「えっと……」

再び雄平の部屋を訪れた塔子は、緊張から解放され、少しだけ脱力していた。
それでも頭から離れないのは、先ほど声をかけてきた男の去り際の言葉だ。
今となっては空耳だったのか真実だったのか区別もつかないが、こうして雄平のマンションにやってきたことで塔子は安堵し、ついそのことを口にしてしまった。

「それは、ストーカーじゃないのか?」

しかし、なぜか雄平は怒りをあらわにして詰め寄ってくる。

「ですから、私には見覚えがないんです。それに、今となっては幻聴だったのかもしれない。実際、いくらか酔っ払っていましたから」
「そもそも、酔っ払った状態で一人で帰るなよ」
「そんな……」

普段は冷静で、感情を表に出すことの少ない雄平が、なぜこんなにも怒っているのか塔子にはわからない。

「とにかく、一人で出歩かない方がいいし、アパートにも帰らないほうがいい」
「それは、無理です」

本人の知らないところで塔子を見ている人物がいるのなら、それはストーカーなのだろう。
もちろん気味が悪いし、恐怖も感じる。
しかし突然の出来事でもあり、どこまでが真実でどこまでが幻だったのか区別がつかない。
それに、一人暮らしで会社勤めをしていれば、一人で出歩かないようにすることは不可能だし、給料の中で生活している以上、突然アパートを出ることもできない。

「しばらく、ここにいたらいい」

―――え?

塔子は再び幻を聞いた気がした。
ぽかんとしたまま動きが止まり、ゆっくりと顔を上げると、そこには穏やかに微笑む雄平がいた。
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