仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~
「異動を、了承していただけますか?」

話に追いつくのが精一杯な私をよそに、夜見社長は淡々と話を進めていく。

穏やかな物言いの裏に、拒むことを許さない冷ややかな圧が潜んでいる。生まれながらの王者。
つい頷きかけたところで、はっと思いとどまった。

……来週からなんて急もいいところ。
今のマンションに務めてもう四年。朝のロビーに差し込む光のきらめきも、夜更けの静けさも、私の日常のひとつになっている。

それに……。

「もし、お断りした場合は……?」

思いきって尋ねた私に、夜見社長は先程と変わらない笑みを返した。

「その場合は──」

三秒にも満たない沈黙。
そのわずかな隙間で、空気がぴん、と張り詰めた。

「もちろん、“なかったこと”になります」

「え?」

「あなたの、ここでの四年間の全てが……ね」

一瞬、呑み込めずに言葉を失う。

いいや、ある意味ではすでに理解できていた。考えるより先に肌で感じた恐怖によって、これが理不尽な宣告であることを。
< 10 / 46 >

この作品をシェア

pagetop