仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~

「……え?」

出迎えの挨拶をするより先に、戸惑いの声が漏れる。

「……ああ。これは、大切な日なので記念にと。赤い薔薇なんてベタかもしれませんが、よかったら受け取ってください」

ゆっくりと差し出され、視界が鮮やかな赤でいっぱいになった。
ざっと数えても三十……いや、四十本はありそうだ。

偽りの夫婦なのに、こんなサプライズがあってもいいのだろうか。

「すごく綺麗……。ありがとうございます」

受け取った瞬間、ため息にも似た声が漏れる。
こんな立派な花束を贈られたのは初めてで、じんわりと胸があたたかくなった。

そんな私をよそに、彼はさらにもう一歩距離を詰めてきた。

「もしかして、俺のために玄関まで走ってきてくださったんですか?」

あまりの恥ずかしさに、かーっと顔が熱くなる。

「す、すみませんドタバタと品もなく……っ」

「いえ。とても嬉しいです。ありがとうございます」

そう言いながら彼がネクタイを緩めた。
隠されていた鎖骨のラインが露わになり、あまりの色っぽさにどきりと胸が高鳴る。

「あの……。お……──お疲れ様でした。意外と早いお帰りだったのでびっくりしました」

おかえりなさいの言葉を口にできず、代わりにそんな言葉で誤魔化てしまう。

すると彼は、ふっと目を細めた。

「言ったでしょう? 早く会いたいって」

その声は昼間に電話越しで聞いたときよりもずっと低く、甘く響いて。
あろうことか、鼓動が速まっていくのを感じる。

……こんなの、ずるい……。
完璧主義も、ここまででなくていいと思う。

きつく鍵をかけたはずの心は、彼の優しい声をひとつで内側から簡単に壊れ始めていた。
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