仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~
「──なんてね」

逃げ道を完全にふさがれたと思った矢先に、そんな声。
冗談ですよ、と彼は静かに続けた。

……冗談?
人の心をここまで凍りつかせておいて?
それこそ黒い筋の人間にしか理解できないユーモアなんじゃないだろうか。

ていうか、この人ならたぶん本気でやりかねない……。

「すぐに頷けないということは、迷う理由があるわけですね。差し支えなければ教えていただいても?」

「っ、いえ……、その、迷い、といいますか……」

夜見社長は、完璧な笑みを保ったままだ。
さっきと、今と、冷酷なイメージはなにひとつ変わらないというのに、どうしてだろう。深い瞳に見つめられていると、今度ほんのわずかな優しさのようなものを感じてしまう。

騙されちゃだめ。そんなわけないんだから。

気遣うようなセリフは、どうせ私を頷かせるための方便にすぎないのだ。
わかっている。わかっているのに、心をきつく縛っていたものがひらひらと勝手にほどけていく。

「マンションのコンシェルジュって、住人の方のサポートをする存在じゃないですか、あくまで。ただ必要とされたときに必要なだけ手を差し伸べるみたいな……えっと、言うならば影の役割というか……」

私はいきなり何を言い出すんだろう。文脈もおかしいし話がまとまっていないのがバレバレだ。

それでも、彼が丁寧に相槌を打ってくれるせいか、止められなかった。
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