仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~
「だけどそういう影の役割の中でも、私はたしかに、おひとりおひとりと向き合ってきたんです。誰と、どんなやりとりをしたか、過去の些細なこともけっこう鮮明に覚えてて……。そういう、ここでの小さな結びつきは、私にとってすごく大切に思えるものでした。だから……」
だから────。
言葉が途切れる。
結局、着地点が見つけられず力尽きてしまった。
うう……やっぱり失敗した。後先考えずに話すんじゃなかった。さぞ面倒な女だと思われただろうな……。
そう項垂れた直後、だったから。
「──知ってますよ」
彼が落としたそのひとことを、はじめは聞き間違いだと思った。
その瞬間、彼の目尻がほんの少し和らいだのも、同じく気のせいだと思った。
「あなたが住人ひとりひとりと積み重ねてきた時間が軽いものではないと知っているから、俺は今ここに座っているんです」
「……それは、どういう……?」
「各マンションから提出される日誌、報告書、住民の声……俺は毎日すべてに目を通していましてね。過去のデータを総合的に見て、一番欲しいと思った人に会いに来た。そういう話ですよ」
「へ? は……はあ」
情報量の多さにぽかんとする。改めて、四年間コンシェルジュを務めてきたとは思えない間抜けさだ。