仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~
どうしよう。謝らせたかったわけじゃないのに……。
それに本音を言えば、まだ離れたくない……なんて。
一度逃げ出した立場で言えたことじゃないけれど。
「あの……待ってください」
背を向けて自室へ戻ろうとする彼を、震える声で呼び止める。
「あの、その……慣れていないだけで、嫌なわけじゃないんです。だから、その……少しずつ、段階を踏んでいけば、きっと大丈夫です……」
緊張でくらくらする。
彼の顔もまともに見ることができない。
それでも、私の、精一杯の素直な気持ちだった。
「段階……ね」
やがて耳元で静かな声が響いた。
統悟さんか身をかがめて、ゆっくりと視線を合わせてくる。
「段階を踏むとは、具体的に、まずは何から始めればいいですか?」
「たとえば……ええと、その……手を繋ぐ、とか」
蚊の鳴くような声で答えると、予想外の言葉だったのか、彼は目を丸くした。
「っ、すみません、子供っぽすぎましたよね……」
「いえ。理優さんがいいなら、そこから始めましょう。手を貸してください」
そっとすくい上げられて、どきりとする。
手のひらが重なった。
男の人らしい、私よりずっと大きな手。
触れた体温が思いのほかやさしくて、あたたかくて、鼓動がしだいに速まるのがわかる。
彼は私の目を見つめたまま、ゆっくりと指先を絡ませていった。