仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~
「ところで統悟様。今回はいつも以上に大勢の方から声をかけられたかと存じますが……、お困りになられるようなことはありませんでしたか?」
ふと、柳さんが思い出したように彼に尋ねた。
何気ない労りのセリフに聞こえたけれど、その刹那、私はハッと思い出す。
────『統悟様は、人の顔を記憶するのが苦手でいらっしゃるのです』
────『たしか中学生あたり……統悟様の存在が世間に大きく知られるようになった頃からですかね。徐々に人の顔がわからなくなっていったようで』
クラルテへ異動して間もない頃、柳さんからそんな聞いた話を聞いていた。
今のはおそらく、そのことを案じる意味だったのだろう。
「ええ。なんとか乗り切りましたよ。相手の癖や声を覚える努力をして、だいたいの判別はつくようになりました」
統悟さんがにこりと微笑むと、柳さんは安心したように頷いた。
……統悟さんは、やっぱりすごいな……。
パーティーを思い返してみても、彼が相手の名前を間違えるようなことなんて一度もなかった。
今日挨拶を交わした人だけでも、いったい何人いただろう。
癖や声でその全員を判別するなんて、並み大抵の努力では絶対に叶わないはずだ。
「それでは少し早いですが、私はそろそろ帰ろうかと思いますので」
そう言った柳さんに慌てて頭を下げる。
「統悟様、ご両親にもよろしくお伝えください。理優さんもまた、職場でお会いしましょうね」