仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~
俺の人生において、自分の意思なんてものは必要がなかった。
与えられる期待に応えていれば、ただそれだけでよかった。
優秀な息子。
次代の当主として申し分ない。
耳に馴染んだ称賛の裏には常に、どす黒い嫉妬や、こちらの失脚を願うような悪意が渦巻いている。
差し伸べられる手のほとんどは、俺の背後にある権力や資産を毟り取ろうとするためのものだった。
幼い頃からそんな環境に身を置いていれば、心は必然的に摩耗していく。
けれどそれが当たり前だと受け入れば心は慣れて、いつしか何も感じなくなっていた。
大学在学時代は、形式上のキャリアを積みながら、じきに嫌でも与えられる「社長」という座を無気力に見つめていた。
そんな俺の人生が一変したのが、今から5年前の─────春のこと。
経営者としての教育の一環で、両親に無理やり見せられた、うちの子会社の新入社員研修の記録映像がきっかけだった。
画面の中で、コンシェルジュ部の制服に身を包み、まっすぐな瞳で講師を見つめる女性に、思わず寸秒、目を奪われたのだ。
それが彼女────成田理優。