仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~


だが、さらに二年後。

いざ彼女に手を伸ばそうとした矢先、黒峰から聞かされたのは『彼女には五十嵐という恋人がいるらしい』という最悪の報告だった。

黒峰が彼女の勤務先であるマンションの視察に出向いた際、同僚である笹井という女性にそれとなく尋ねた結果、そのように返された、と、


積み上げてきた実績も、手に入れた権力も、すべてが砂のように指の間から零れ落ちていく感覚に、俺は初めて絶望という言葉の意味を知った気がした。

しかし、どういうわけか、その情報は誤解だったらしい。



たまたま彼女を助けたあの日。
五十嵐に腕を掴まれ、逃げ場を失っている彼女を見つけたとき、どうしようもなく胸が締め付けられた。

普段は凛とした表情の彼女が、怯えたように肩を震わせている。

強くて、しっかりしている子だと思っていた。
けれど違った。彼女はただ、人前で弱い姿を音を見せていなかっただけだ。

守りたい。誰にも傷つけさせたくない。

冷え切っていた胸の奥で何かが爆ぜた。
自分の心臓はこんなにも激しい音を立てるのだと初めて知った。



────『俺と結婚してくれませんか』

まさか自分の口からそんなセリフが出てくるとは思いもしていなかった。

ビジネスとしての偽装結婚。
そんな嘘を塗り固めないと彼女の隣に立てない自分に、つくづく嫌気が差した。

断られることが当たり前。
軽蔑される覚悟もしていた。

なのに、彼女は少し戸惑った後、静かに頷いてくれた。

あのとき、どうやって平静を装ったか、今でも思い出せない。

たとえ「偽装」という名の関係であっても、彼女を腕の中に閉じ込めておけるのなら、それでいい。

恋愛を望まないという彼女の思いを尊重し、ただそばにいるだけで満足しよう。

そう誓ったはずだったのに。

近くにいれば、そんな穏やかな感情だけではいられなくなる。

隣にいるだけでは足りない。

今すぐ触れたい。

もっと深くまで愛したい。

無理だとわかっているけれど、同じように愛されたい。


彼女が俺以外の誰かを見つめるのも、微笑みかけるのも────もう、耐えられる気がしなかった。

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