仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~
「クレームとは、いったいどのような内容でしょうか」
「それはもういちいち伝えるのも面倒なほど、たくさんですよ」
「ぐ、具体的には……」
すると沖野さんは、わざとらしく長いため息をついた。
「例えば、『“芸能人である息子を紹介してほしい”などと、私情にまみれたお願いをされた』、『女性にはそっけなく、若い男性に色目を使っており気持ち悪い』、『サービスを断ると、大きく舌打ちをされ、暴言を吐かれた』
「────え? っ、そんな、まったく身に覚えがありません……!」
「とぼけても無駄ですよ。事実、これまであなたが親しくされていた入居者の方々からも、実名で報告が上がっているんです」
「な、なにかの間違いです……なんとか信じてもらえないでしょうか……」
「……。中にはこんなものもありまよ。『親切心の皮を被った嫌がらせに耐えられない』……と」
そんな……。
くらりと目眩がした。
最初に告げられた内容は、とても信じられないけれど……胸を張って違うと言い切れるけれど。
親切心の皮をかぶった嫌がらせ……。
自覚がなかっただけで、押し付てしまっていたことも、あったのかな……。
「あなたの問題行動は、もうネットの記事にも小さくですが取り上げられています。『夜見統悟の妻 仕事中に暴言か』という見出しでね」
向けられた画面を信じられない思いで見つめる。
「……はあ、これでは夜見家の名誉にかかわりますね。私も、元々釣り合いが取れていないと思っていたんです。社長の頼みだから仕方なく親切に接してあげていましたが」
絶望が、足元から這い上がってくる。
「そして、これが正式な処分です。あなたは本日付けで『二週間の出勤停止』。その後、あなたは元いたマンションへと異動になります」