仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~

おかしい。
だって、ここにいるはずがない。

会いたすぎて、私はついに幻聴を聞くようになったのかも……。

私は視線を落としたまま動けなかった。
心臓がバクバクと激しく音を立てている。


「なにをしているのかと、聞いてるんだ────理優」

今度はきちんと届いたその声に、私は弾かれるように顔を上げた。


間違いない。
────統悟さんだ。


「どうして……、ここに」

「このマンションの上階に入っている取引先と打ち合わせがあったんだ。しかし中に入ったら、エントランスで社員同士が堂々と私語を交わしている。見過ごすわけにはいかないだろ」

「……っ」

その言葉に、頭が一瞬で冷静になった。
まるで氷水を頭からかけられたみたいだ。

「それに……。なんだそのひどい顔は。そんな真っ赤に目を腫らして人前に立つつもりなのか?」

「…………」

……私に会いに来たんじゃない。
当たり前だ……。

私たちはもう、終わったのだ。

彼は仕事でたまたまここに来て、たまたま私を見つけただけ。

「申し訳、ございません。すぐに……顔を洗ってまいります」

けれど、涙腺は言うことを聞いてくれず、視界が再び涙でいっぱいになる。

泣いちゃだめ。
もう、この人の妻じゃないんだから……。

そう言い聞かせながら涙を拭おうとすれば、ふと、その手をやさしく掴まれた。
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