仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~
……聞いていない。
私は統悟さんからは何も……ひとことも……聞いていない。
あのときの私は、沖野さんから投げられる言葉を事実として受け入れることしかできずにいた。
違うと信じたかった。でも、あの時の状況は、私にはあまりにも残酷で。
おかしいと思いながらも、統悟さんに『失望した』と言われたのだったら、もう私の居場所はここにはないのだと、そう思い込んでしまった。
私は自分の弱さに負けて、一番に信じるべき相手を間違えてしまったのだ。
誰かが用意した偽造工作。あるいただの噂話。
そんな不確かなものを信じ込んで、標的にされた誰かに、平気で悪意を向ける人たちと同じように────。
「っ、ごめんなさい……。私、どうしてあの日、統悟さんに直接確かめようとしなかったんだろう……」
「俺も謝らなければいけないことがたくさんある。まずは俺たちの家に帰ろう。話はそれからだ」
「……。わかりました。では、勤務が終わり次第クラルテへ伺います」
「いや。俺が今すぐ連れて帰る」
はっきり言い放った統悟さんをぽかんと見上げる。
今すぐ、って。
私はまだ勤務中だし、そんなことできない。
でも……統悟さんが言うならそれでいいのかもしれない。
熱のせいか意識がふわふわ浮いて、映像を眺めているみたいに現実味がなかった。
「五十嵐さん、申し訳ありませんが妻はこのまま早退させます。あとのことは、あなたに任せてもよろしいですね?」
有無を言わせぬ圧に、少し青ざめた顔をした五十嵐くんがぎこちなくうなずく。
私は統悟さんに手を引かれるままその場をあとにした。