仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~

それは、いつも私を気遣ってくれる五十嵐くんの想いを跳ね除けたくないのが半分。
もう半分は、今の状況からひとまず逃れたいという、無責任で最低な理由から出たセリフだった。

やがて五十嵐くんの手が離れていく。

「わかった。返事、待ってるから。また明日」

最後に向けられた笑顔に、胸がずきりと痛んだ。

うまく、言葉を返せなかった。
それどころか、伝えてくれた好意を、別の恐ろしいものではないかと疑ってしまったりして……。

人としてだめだな、と反省する。
今日は異動を言い渡されたのもあって、余裕がなかった、かも。

五十嵐くんにはもう一度きちんと向き合って、自分の気持ちを伝えたい。

でも……やっぱり、答えはすでに決まっている。


───『彼氏作りたくない理由があんの?』

人にわざわざ語るほど大層な理由じゃない。

けれど自分とっては、恋をしない理由として十分な過去がある。

五十嵐くんの姿が見えなくなり、私はしばらくその場に佇んだ。

一日が終わろうとしている。

夜の静けさが微かな痛みをともなって、少し遠い記憶を、そっと掘り起こしていった。
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