仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~

いや、そもそも、べつに逃げたいわけではなかった。

今勤めているマンションだって十分すぎるほど一流だ。
ただ、私にとってはもう安定を得る場所になってしまっているのも事実で……。

新しい失敗をしなくなったのと引き換えに、新しい努力もしなくなっていって。
背伸びをしなくても届く景色に、いつの間にか安心しきっていて。

このままでいいと思える自分に、いつも心のどこかで不安を感じていた。

ふり返れば、私はずっと変わるきっかけを探していた気がする。


異動を言い渡されたとき、それなりの経験者だからとか、性格上断らなさそうだからとか、そのレベルの都合のよさで選ばれたのだと思った。

夜見社長にはテキトウな言葉でおだてられ、うまく言いくるめられてしまったと。

けれど、異動先がクラルテとなれば話が変わってくる。

クラルテのロビーに立つコンシェルジュが、誰でもいい、なんてことは絶対にないはずだから。
< 27 / 46 >

この作品をシェア

pagetop